第2話  重さ


「……さて、行くか」



 カテンはダンジョンの入り口をくぐり、ひんやりとした空気を感じながら奥へと進む。



 ここは地下迷宮。階層ごとに魔物が生息し、奥へ進むほど強敵が現れる。



 第一層は初心者向け……とは言え、俺にとっては初戦だ



 慎重に進んでいると、かすかに小さな足音が響いた。



「……来たか」



 通路の奥から灰色の毛むくじゃらの魔物が姿を現す。



 ラットモンスター。



 ダンジョン内では最弱とされる魔物だが、カテンにとっては初めての実戦相手だ。



「【鑑定】」



《ラットモンスター》

レベル:1

重さ:32kg



「……重さ、ねえ」



 カテンはため息をついた。



 俺の【鑑定】は、名前とレベル、それに重さが分かる。でも、この重さが分かることに何の意味があるんだよ……



 ギルドで鑑定士をしていたころ、重さが役に立ったことはない。むしろ邪魔だったことのほうが多い。



 特に最悪だったのは、女性冒険者のステータス確認をしたときだ。



『ねえ、なんであんた私の体重を知ってるの!?』



 泣きながら詰め寄られ、周囲の冒険者たちに白い目で見られ、ギルド長には「カテン、アンタそういう趣味があったの?」と絡まれた。



 ……くそ、思い出すだけで胃が痛い。



 ラットモンスターは低く身をかがめた。



「っ!」



 跳ねるように飛びかかってくる。



 カテンは慌ててショートソードを振るった——が、



「うわっ!?」 



 魔物はすばしっこく、カテンの攻撃を難なくかわした。



 そして、そのまま鋭い牙をむき出しにして飛びかかる。



「っぐ……!」



 腕を上げて防ごうとしたが、ラットモンスターの牙がカテンの袖を裂き、かすり傷ができた。



 こいつ……思ったより速い!



 攻撃のたびに飛び跳ね、動きが読めない。



 カテンは距離を取ろうと後退するが、魔物はすぐに間合いを詰めてくる。



 やばいな……このままじゃジリ貧だ



 焦りとともに、冷や汗が流れる。



 だが、少しずつ気づいたことがあった。



 ……いや、待て。こいつ、飛びかかる前に必ず姿勢を低くして——



 動きをよく観察すると、ラットモンスターが攻撃する前に、必ず小さく身をかがめているのが分かった。



 つまり、あのタイミングで……!



 魔物が再び身をかがめる。



「今だ!」


 俺は一気に踏み込んだ。



 ラットモンスターが飛びかかる瞬間、ショートソードを横に薙ぐ。



「っせい!」



 刃が魔物の体を捉え、核を貫いた。



「ギャッ!」



 ラットモンスターの体が震え、核が砕ける。



 シュウウウウ……



 魔物はチリとなって消え、その場に小さな紫色の石が残った。



「はぁ……はぁ……っ」



 肩で息をしながら、俺は剣を握る手を見つめる。



 思っていたよりも、はるかに大変だった。



 ギルドで話を聞いてたときは、もっと簡単そうに思えたのに……



 実戦は甘くない。



 それでも、初めての勝利だった。



「……よし」



 落ちた魔石を拾い、次の戦いに備えて深呼吸した。





 その後俺はラットモンスターを何体か倒し、また別のラットモンスターと戦っている。



「【鑑定】」



《ラットモンスター》

レベル:1

重さ:32kg



 やっぱり、どの個体も32kgか……



 何度かラットモンスターと戦い、俺はあることに気づいた。



 魔物の重さって、個体差があるんじゃなくて、種類ごとに固定されてるのか?



 だからなんだって話だけどな。



 そう思いながら、五体目のラットモンスターと遭遇したとき——



「ん?」



《ラットモンスター》

レベル:1

重さ:33kg



 ……違う!?



 今までの32kgとは異なり、わずかに重い。



 なんでこいつだけ……?今までのやつと何か違うのか?



 カテンは今までのやつらとの違いに不安を覚えたため慎重に構えた。



 しかしモンスターの行動パターンは今までと同じものだった。



 俺はいつものように攻撃のタイミングに合わせて敵の核を破壊する。



 魔物がチリとなったあと——



 ポトッ



「……?」



《ラットモンスターの牙》



「……マジか」



 初めてのレアアイテム。



 もしかして、重さの違いはアイテムドロップと関係しているのか……?



 同じラットモンスターでも、アイテムを落とす個体はわずかに重いのか?



「……これは、使えるかもしれないな」



 俺は新たな可能性を見つけ、ゆっくりとダンジョンの奥へと進んでいった。



 それから俺は狙うべき敵を選びながら探索をした。



「【鑑定】」



《ラットモンスター》

レベル:1

重さ:32kg



 少し離れた場所からスキルを発動して重さを確認する。



 こいつはスルー



 狙うのは、33kgの個体のみ——。



 しばらく通路を進み、別のラットモンスターを発見する。



「【鑑定】」



《ラットモンスター》

レベル:1

重さ:33kg



 来た!



 俺は一気にショートソードを構え、距離を詰める。



 動きはすでに把握済み。



 飛びかかる前に低く構える——その瞬間を狙い、横薙ぎの一閃を放つ。



「っせい!」



 刃が魔物の核を正確に貫いた。



「ギャッ!」



 魔物がチリとなり、地面に何かが落ちる。



 ポトッ



《ラットモンスターの牙》



「やっぱり……!」



 これで確信した。



 重さが違う個体は、アイテムをドロップする!



 カテンは慎重に魔物を探し、鑑定を繰り返す。



 32kgなら戦わない。33kgなら確実に狩る。



 そのルールを決めて、次々とラットモンスターを確認する。



「【鑑定】……32kg、スルー」



「【鑑定】……33kg、狩る!」



 何度も戦闘を繰り返し、結果は明らかだった。



 32kgのラットモンスターは魔石のみをドロップする。



 33kgのラットモンスターは《ラットモンスターの牙》を落とす。



 これは……すごい発見だぞ



 カテンは自分のスキルが思わぬ形で役に立つことに気づき、驚いていた。



「鑑定の『重さ』情報……今まで何の意味もないと思ってたが、こんな使い方ができるとはな」



 だが、この方法を使えば、無駄な戦闘を避け、アイテムを効率的稼ぐことができる。



 カテンは手にした《ラットモンスターの牙》を握りしめ、満足そうに微笑んだ。



 ……このスキル、意外と悪くないかもしれない

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