第49話 チートじゃね?
フィーネ兵たちに囲まれ、事情を説明してみたが、国家反逆の疑いをかけられ、俺とシャルはフィーネ城地下牢に入れられてしまった。
フィーネの人ってみんな頑固というか、全然聞く耳を持ってくれなかったな。結構強引に連れて行かれた。
その時はヒヤヒヤしたよ。シャルがキレて、また戦うってなったらどうしようかと思ってたけど。今回は相手が大人数だったからかな、シャルも大人しくしていてくれた。
鉄でできた牢屋に軟禁された俺とシャル。
どうしたらいいもんかと悩んでいた俺とは反対に、シャルはいつも通り、
「封書は渡したんだ。読んでもらえりゃ大丈夫だろ。それにこんなとこならいつでも逃げることは出来るさ。そうだ、俺のアーツの話聞くか?さっき説明出来なかったし」
シャルはなんとかなるでしょって言ってくれる。
呑気だなと思ったが、自信に満ちたシャルの言葉で、俺も少し気持ちが落ち着いたよ。
焦る気持ちはあったが、ただ牢屋で捕まって時間が過ぎるのも勿体無いと思い、俺はシャルのアーツ『禁酒』について詳しく聞くことにした。
シャルのステータスプレートに書かれている『禁酒』の説明文は、ざっとこんなカンジらしい。
禁酒:飲んでないで真面目に働け。シラフの方が効率って良いんだからな!
……相変わらずウレールの説明文はひどい。
説明文を聞いた時は、つい笑っちまった。俺のアーツもふざけてたが、シャルのもかなりテキトーな説明文だなって。
最初は笑ってたんだけど、しっかり内容を聞いてみると、だんだんバカにできなくなる。なんなら俺が喉から手が出るくらい欲しい能力が、『禁酒』には備わっていた。
『禁酒』は酒を断った分の時間を貯蓄し、その貯蓄した時間を消費することで、能力を向上させるというものらしい。
さっきのサリバンとのバトルでは、『禁酒』を使って身体能力を強化していたのだ。だから闘気を
また能力向上というのは身体だけに限ったものでは無い。
戦略を練るなどの時には、脳を活性化させたり、本職の酒や食事を作る際などは、手先の器用さを向上させたりする。
『禁酒』というアーツは、目の前にある物事をシャルが仕事と認識さえすれば、それに対する行動自体にバフがかかるというものなのだ。
それに第1段階と第2段階って話。
『禁酒』の第1段階というのは普通にアーツを使うだけなのだが、第2段階っていうのはそのアーツを使って強化された状態を、さらに強化することらしい。まぁ、二重付与ってやつだな。
貯蓄していた禁酒時間を倍以上消費することでさらに強くなれるし、アーツのLvを上げるたび、能力向上の上限が解放されていくのだと。
つまりシャルは、このアーツだけを極めて行けば、いつしか数百、数千倍と瞬時に能力を向上させることが可能になるのだ。
説明を聞けば聞くほど、俺は弱いアーツと言うシャルの気持ちがよくわからなかった。
だって強くねーか? やることなすこと全部上手く行くようになるって。
完全にチートのレベルだろ!
酒飲まないだけで強くなれるなら、俺が欲しいよ。未成年だから飲むわけ無いし。
それが一番弱かったら、お前、他のアーツはどうなるんだよ。もっとやばい能力なのか?
俺はシャルに、『禁酒』の
「いや、酒飲めないってのはダメだろ。俺の本職って酒場のマスターなのよ。酒好きに決まってるやん。我慢とかって、好きな時に酒飲みたいやん」
シャルは能力の強さどうこうではなく、酒を飲めない時間があるのが辛いと言うのだ。
現にシャルが貯めてる禁酒時間はそこまで多いわけでは無いという。我慢が効かなくてちょいちょい飲んじゃうらしいのだ。
酒場のマスターが酒を飲めなくなるぐらいなら、軍人を辞めたいと言って、前任のアスティーナ国軍総長とケンカになったこともあるらしい。
それぐらいシャルにとって酒を断つというのは考えられない事だったのだ。
そんなシャルを国軍総長に任命したのは、アスティーナ王国の女王である、シルビアなのだ。
今回の魔王軍侵攻の期間のみ、国軍総長として軍を指揮して欲しいとシルビアから直に頼まれ、シャルは渋々それを了承。
『禁酒』を使えるように、国軍総長になってから今に至るまで、出来るだけ酒を控えることを心掛けているようなのだ。
「我慢してまでシャルがやらなきゃいけないことなのか?」
「んー、俺じゃなくてもいいとは思ってたな。前の総長もかなり強かったし。てか1対1なら、多分俺よりも強かったしな、あの人」
「シャルより強いって、ほんとかよ」
俺はシャルに疑問をぶつける。
シャルの能力があれば、軍のトップに立てると思う。
でも、酒場を休業し、酒を控えてまでやることなのか?
元々間違って募集を受けたって話だったし、酒が大事なら軍を続けなくてもいいだろうに。
聞けば前任のアスティーナ国軍総長はシャルより強いと言うではないか。
「俺にも夢があんだよ」
「夢?」
「アスティーナだけじゃ無い。世界で商売するって夢がな」
シャルは自分の持ってる将来の展望と軍人を続ける理由を語り始める。
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