第23話 神って雑だな
冒険3日目の昼過ぎ、俺は昨日と同じく、スラ洞窟でスライムたちと戦っていた。
「でな、その魔族ってのは……」
「待て待て待て。今俺忙しいんだよ!」
「貧弱な声出しおって……流水の舞! ちゃんと戦わんか」
「ちゃんと戦ってるよ。でもこの状況……昨日より酷いじゃんかーー」
ラック村で魔物や魔族について聞こうとしていたが、ヨヨはスライムを倒しながら話をすれば良いと提案して来たのだ。
それはいい案だと思い、俺たちはスライム討伐に来たのだが、昨日とは違い、今日はかなり大量のスライムが一斉に襲って来るのであった。
今俺が相手にしているのは15体のスライム。
8体同時に相手した時でも顔がボロボロになるハメになったというのに、今度はその倍。
アシッドを覚えたことで飛んでくる魔鉱石には対応できるようになったが、スライムに近づくことが出来ず防戦一方。
それに対してヨヨは余裕の表情でスライムの魔鉱石を軽々と受け流している。
ヨヨが使っているアーツは『流水の舞』
ヨヨを中心に周りを取り囲むようにして出来た水の竜巻は、魔鉱石などいとも簡単に弾き飛ばす。
竜巻の中でヨヨは魔物や魔族について話して来るが、俺はそれを聴く余裕などありはしなかった。
ヨヨの技マジで良いな、羨ましい。
雨降らせるだけじゃ無かったのかよ!
クソ、近づけないなこれじゃ。
アシッドだけじゃ守るので精一杯。
どうする、スキルポイント割り振るか?
ステータスプレートを見てスキルの確認をする。
今現在の俺は少し成長してLv6。
大勢に囲まれる前に倒したスライムの経験値により、Lvが1だけ上がっているのだ。
そして今考えているのはLvが上がった際に獲得したスキルポイントを使うかどうかを迷っていた。
そして使うにしても何に使うか。
スキルである勇者の加護、ウレールの加護、そしてハートの加護に謎の黒塗り。
もしくはアーツである酸攻撃、鉄の楽園、そして自己回復。
勇者の加護が1番強そうではあるが、正直今の段階でポイントを入れたいとは思わない。
その理由は自分の幸運が0だからである。
ウレールのアーツ獲得は言うなればガチャ。
ポイントを割り振って出てくるアーツは当たりもあればハズレもある。
そのアーツガチャに今の所全負けしていると思っている俺は、ウレールのステータスが適当だと思ってはいても幸運0というのが引っかかってしまう。
幸運0のままで勇者の加護にポイントを割り振りたくないのだ。
回復は今のところ問題ない。スライムの攻撃は当たっても痛いだけだから。
黒塗りはよく分からん、てかなんだこれ?
そもそもこれはちゃんとスキルなのか?
スキルの欄に存在する黒塗りについて少しだけ考えた。
黒スライムと戦った後からステータスプレートのスキル欄に表示されるようになった黒塗り。
ヨヨが見えないと言っていたこの黒塗りは、村でジルたちに見せても同じ反応だったのだ。
7つに分かれた黒い四角。
多分、7文字の何かなのだろう。
それにアーツが何も増えてないってことを考えるとこの黒塗りがスキルだとしてもLvは0のはず。
勇者の加護を大事に取っておくなら、黒塗りにポイントを振ってみる事も考える。
しかし、獲得したアーツやその説明文までも黒塗りだったらどうしようかとも思う。
色々と今の盤面を打破する手立てを考える。
そして考えに考え抜いた結果、それは……
「痛たたたたアシッド!、痛い痛い痛い痛いアシッド!、痛ーーーいアシッド!!」
とにかく、めっちゃ頑張ろうと思ったのである。
もう痛いのとか知らん! 痛いだけで死なないだろ、多分。
黒スライムにやられても体大丈夫だったし!
でも、痛いもんは痛い。
あーもう、クッソ痛いなーもーーー!
スキルの割り振りは慎重になる必要があると学んだ俺は、スキルポイントを使わないという方向で今回は行こうと決断する。
ならどうするか、痛いの我慢して前に進むしか無かった。
無数に飛んでくる魔鉱石は、ジャンプして避けたところで狙い撃ちされてしまう。
ならばと思い、ガードはほぼ全捨て。痛いの覚悟で前進あるのみ。
射程に入ったスライムを1匹1匹アシッドで溶解していく。
そんなことを繰り返して行き、地道にスライムを討伐していく。
それを見てヨヨは俺が可哀想だから手伝う、などとは考えず、ただ自分の方に飛んでくる魔鉱石を流水の舞で防いでいるだけであった。
◇◇◇◇◇
15体のスライムと戦闘を終えた俺は、体の傷を癒すため、魔鉱石の作る自然温泉に入浴する。
「ねえ、ヨヨ」
「何だ?」
「俺ここに来てからスライムと戦って、温泉入ってしかしてないけど……これでフミヤ・マチーノと戦えると思う?」
「無理だろうな、スライム相手であのザマじゃ」
「そうだよね」
ヨヨの言う通りだと思いがっくりする。
死なないと思って魔鉱石の飛び交う中をノーガードで突っ込んでいったけど……普通にやられかけた。
石が当たりすぎて目の上がパンパンに腫れ上がって、途中から何も見えてなかった。
最後の方に出したアシッドはもう当たってるのか当たってないのかよく分からなかったレベル。
ヨヨが倒し終わったなって言ってくるまで全然気づかんかった。
黒スライムと対峙したの時ほどではないが、今回の戦いも苦戦と言うしかなかった。
こんなことで魔王軍と戦うって、俺、大丈夫だろうか。
「あっ、そうだ。魔物とか魔族のこと聞くんだった」
「さっき説明したぞ」
「いや、聞いて無かったし」
戦闘中に種族の説明を受けていたが、戦いに集中するのに手一杯で、ヨヨの説明など1ミリも頭に入って無かった。
ヨヨがまた説明するのかと面倒くさがるのを、俺は手を目の前でスリスリしながらお願いするのであった。
「魔族っていうのは俺みたいなやつのこと、それ以外が魔物だ」
「うんうん」
「……」
「……え、終わり?」
一文で説明を終わりにしようとするヨヨだが、俺も流石にこれは酷いと思った。
戦闘中は助けもせず長々と説明していたというのに。
ヨヨが話を
「あっ、馬鹿!? 俺守護神だってばー!」
俺はヨヨを鷲掴みにして、前後に振りまくる。
「俺は神だー」って叫ぶヨヨは、どっかのバカ女神を思い出させるのだった。
アリスといいヨヨといい、神って名前のやつは雑過ぎるぞ!
俺はアリス同様、ヨヨにも力ずくで魔族と魔物の違いを説明させるのであった。
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