第22話 ラック村帰還
今日はたくさん動いたからか、お腹が減って死にそう。
黒スライムとの戦いでも死にそうだったし。
俺はこの短い期間に何回死にかけるんだよ。
あっ、あとヨヨにも文句言わねーと、忘れるとこだった。
俺はヨヨに水死体にされそうになったことを文句言いながら、ラック村へと帰りつくのだった。
みんな寝てるだろうな、だいぶ遅い時間に帰って来たし。
ジルの家に泊めてもらいたかったけど……どうしよう、起こしてまで泊めてくれって言う勇気無いな。
二人がラック村に着いたのは村の明かりがない、星明かりが綺麗に見えるほどの真夜中。
洞窟の中で気絶してたこともあり、出発してからかなり時間が経っていたのだ。
冒険の2日目は野宿か。
いや、冒険者ってのは外で焚き火をしながら休むのが定番だろ!
でも飯が無いよな〜。
アニメなどで見る冒険者の野宿姿を想像するが、同じ事にはならないと瞬時に判断する。
今の俺には何も用意できないのだ。
外は草原が広がってるだけで食料など確保出来無い。
仮にいたとしてもスライムだけ。食料にはならないだろう。
それに木を集めたところで酸しか使えない自分と雨を降らせるだけのヨヨでは火が起こせない。
「どうするヨヨ?」
「……お前、完全に俺を尊敬するの辞めてるな?」
呼び捨てにするとヨヨは「尊敬しろよ、一応神的存在だけど」などとぬかしやがる。
尊敬なんてあるわけないだろ。俺はお前にも殺されかけてるの忘れてんのか?
なんならあの黒スライムと出くわしたのも、元を辿ればお前のせいだろ。
俺は農民じゃなくて勇者なの!
雨降らせるぐらいで調子乗んなよ、チビ!
口に出すようなことはしないが、俺はヨヨに対してもかなり怒っていた。
死にかけたことは確かにヨヨが発端ではあるが、それ以外のLvが5までしか上がらなかったことやスキルが弱々なことまで全部ヨヨのせいであると心の中で責任転換していたのだった。
「そんなことより」
「そんなことって……」
「寝るとこどうするよ? みんな寝て!?」
この後どこで寝るのかを尋ねようとした時、村の明かりが一斉につき始めた。
家の中からゾロゾロと村人が出て来て、俺とヨヨは取り囲まれる。
そして皆揃って俺ととヨヨの帰還を喜んでくれる。
「ジル! それにみんなも……どうして?」
「お前が帰って来るの待ってたんだよ。ウレール救う勇者が頑張ってんのにスヤスヤ寝てられるかよ」
「……ほっぺた、真っ赤だけど?」
「え?」
ジルは寝てられないと言っていたが、多分頬杖ついて寝ていたのだろう。
顔の横が真っ赤になっている。
でもなんか嬉しいもんだな、こうやって迎え入れてくれるのって。
みんな、ありがとう。
口には出さないが、俺は心の中でラック村の全員に感謝した。
無言になる俺に「怒ってるのか?」と聞いてくるジルには少し笑った。
怒るわけないよ。全然寝ててもおかしくない時間だろうし。
ただ勇者って名乗ってる、何も成し遂げて無い俺を待っててくれるなんて。
ラック村、いい人たちばっかりだな。
気分は良くなり、いつの間にかヨヨに対する怒りも収まっていた。
ご飯の準備をしてくれるということでお言葉に甘えて、今日もジルの家でお世話になるのだった。
◇◇◇◇◇
冒険に出て3日目の朝。
俺はジルの家の前で
「おいおい、勇者なんだからそんなことしなくていいんだぞ」
「お、ジル。おはよう」
家から出てきたジルは、俺が薪割りしているのを見てビックリしていた。
勇者なんだからと言ってくれるのはありがたいけど、まだ勇者として、俺は何もしてないし。
タダ飯食わせてもらって、その上借りてた
今自分にやれることでジルに恩を返したいと伝え、目の前の薪をひたすら割っていく。
一度は止めたジルも俺の考えを聞き、そういうことなら頼むと言い、畑仕事に向かうのであった。
「お前さんは変わっとるの」
「あ、ヨヨ。おはよう」
薪割りを続けていると、今度は羽をパタパタさせながら飛んでくるヨヨの姿が見えた。
「勇者が薪割りとはな。もっと堂々としてもいいんじゃないか?」
「そうか?」
「俺は雨を降らせるから感謝されるし、感謝されて当然と思ってるぞ。で、お前は勇者。ならそんなことしてないで早くLvを上げて、魔王を倒すことだけやればいいんじゃないのか? それで感謝されるんだから、いいじゃないか」
ヨヨは俺の行動を不思議だと言ってくる。
確かに、ヨヨの言うことも一理ある。
勇者としての仕事をするのが最終的にジル達への恩返しになるって。
でもそんないつになるか分からないことよりも、できるなら今恩は返しときたいんだよ。
それに魔王フミヤ・マチーノ。
文化人フミヤと同一人物なら正直勝つ見込みが無い。
転生直後のステータスですら化け物だったフミヤ。
それから30年近く経ってるということは、ヨヨに聞いた以上のステータスをしているに決まっている。
唯一勝てる可能性があるとすれば、フミヤが歳であることぐらいだろう。
ヨヨの言うことが正しいのであれば、フミヤの現在の年齢は6、70歳か。
年老いたフミヤが年相応のヨボヨボおじいちゃんになっていれば、動きも鈍くなっているはず。
ステータスにある素早さの数値は、昔のフミヤのほうが今の俺よりある。
でもこれはウレールのステータスプレートが表記する数値、かなり怪しい。
フミヤがちゃんと年寄りならば、若い俺が運動量で負けるはずが無いのだ。
「この世界で60歳とか70歳って、ちゃんとお爺ちゃんなのか?」
俺はヨヨに年齢について聞くことにした。
元の世界では60、70歳男性というのはれっきとしたお爺ちゃんなのだ。
しかしここは異世界。70歳だろうが現役バリバリお爺ちゃんの可能性だってある。
「ちゃんとの意味は良く分からんが、人間の60歳ってのはジジイだよ。ヨボヨボのジジイ」
「そっか、ジジイか……そういえばヨヨっていくつなの?」
「ん?多分120」
え?120歳!
こんな子供みたいな見た目して!?
魔物って見た目じゃ歳分かんないのか?
7、8歳って言われても納得するぞ。
俺は人間の年齢基準が元の世界とだいたい同じだろうと認識すると同時に、ヨヨが自分と100歳以上も違うことに気づき、ビックリしてしまう。
魔族というのは人間と別で考えなくてはと、改めて認識させられるのであった。
「えっとヨヨ……お爺ちゃんは」
「誰がお爺ちゃんだ!普通にヨヨでいいわ」
「あ、そう?」
歳を聞いてヨヨをお爺ちゃん扱いする俺に、ヨヨは普通に呼び捨てにしろと言ってくる。
てっきりヨヨ様だろって言われると思ったけど、もう呼び捨てに慣れたのか。
「ヨヨが120歳ってことは魔物……いや、魔族か。魔族の寿命は長いのか?それと魔物と魔族の違いとかもちゃんと聞きたい」
魔族と魔物のことを俺はまだよく知らない。
少しずつでも聞いていかないと。
俺は今まで勘違いしていたらしいが、『魔物』と『魔族』というのはウレールでは別の扱いらしいのだ。
魔物と魔族を『モンスター』って
俺はヨヨに人族、魔物、魔族の詳しい説明を求めるのであった。
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