第36話:影の断片を追う探偵
風間は警視庁の捜査資料を手に、刑事たちと共に監視カメラの映像を確認していた。数々の異常事件の記録、その断片がモニターの中に映し出される。しかし、そのほとんどは決定的な証拠に欠けていた。映像が途切れる瞬間や、暗闇の中で何かが動く影ばかりが映し出される。
「……やっぱり、妙だな」
風間は腕を組みながら、繰り返し映像を巻き戻し、気になる箇所を探る。
「何が妙なんだ?」
刑事の一人が眉をひそめる。風間はモニターの一つを指差した。
「この映像のノイズ……停電によるものとは考えづらい。EMP(電磁パルス)のような影響を受けたなら、カメラの記録そのものが消失しているはずだ。だが、ここに映っているのは“乱れ”だ。つまり、何者かが物理的にカメラに干渉した可能性がある」
「つまり……誰かが意図的に映像を妨害した?」
「その可能性が高いな。ただし、それが機械的なジャミングなのか、もっと別の……常識では説明できない力によるものなのかは、まだ分からないがな」
刑事たちは顔を見合わせた。警察の管轄である以上、科学的な説明がつかないものは扱いづらい。しかし、風間の指摘した点は確かに気にかかる要素だった。
「おい、橘。過去の類似事例を検索できるか?」
「やってみるが……」
刑事の一人が端末を操作し、データベースを検索する。すると、意外な事実が浮かび上がった。
「……やっぱりあったな。ここ最近、同様の映像乱れが複数報告されている。それも、今回の事件現場の近辺で」
風間はモニターに映し出されたリストをじっと見つめた。被害の規模や形式は異なるが、奇妙なノイズの発生地点は、例外なく魔法使い同士の戦いが行われた場所と重なっていた。
「……これは偶然じゃないな」
彼はそう呟くと、懐からメモ帳を取り出し、映像の乱れが発生した地点をまとめ始めた。
「どうする気だ?」
「実際に現場を回ってみる。被害が起きた直後じゃなく、時間が経った今なら何か痕跡が残っているかもしれない。お前らもこのデータを基に、それぞれの事件を再検証してみたらどうだ?」
「おいおい、まるでお前が俺たちの上司みたいな言い方だな」
「別にそんなつもりはないさ。ただ、お前らは法律の枠内でしか動けない。俺は違う。だからこそ、できることをやるだけだ」
刑事たちは不満げに見つめながらも、彼の言葉を否定できなかった。
「……いいだろう。だが、変な真似はするなよ」
「お前らよりは慎重に動くさ」
風間は資料を手に、静かに部屋を後にした。彼の頭の中には、ある仮説が浮かんでいた。
“これは、ただの事件じゃない。”
人間の手に負えない力が、確実にこの街で動いている——そう確信するには、十分すぎる状況だった。
階段を降りながら、彼はジャケットの内ポケットからスマートフォンを取り出した。通知履歴をスクロールすると、数日前に悠斗から送られてきたメッセージが目に留まる。
『不自然な事故が多発している。調べられるか?』
その時は単なる都市伝説の類かと思い、軽く聞き流していた。しかし、今目の前に広がる状況は、悠斗の言葉が決して誇張ではなかったことを示していた。彼はメッセージをもう一度読み返し、深く息を吐いた。
そして、もう一つ思い出す。
「天馬 縁か……」
彼の頭の中に、ある男の顔が浮かぶ。都内に住む電子機器の専門家であり、都市の監視システムにも精通している女性。警察内部ですら扱いに困るレベルの高度な電子機器の異常を、彼なら解析できるかもしれない。
問題は、天馬がそう簡単に協力してくれるかどうかだった。
「……訪ねるべきか」
風間は立ち止まり、窓の外を見やった。東京の街は変わらずにぎやかに見えるが、その裏側で確実に何かが蠢いている。
悠斗の依頼、不可解な事件の連鎖、そして天馬 縁。すべてが繋がるのか、それとも新たな謎を生むのか。風間は迷いながらも、次の一手を決めるべく、スマートフォンの画面を見つめ続けた。
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