第九話 旅人の運命


 とある壮大な森の深くに、AとBのふたりの旅人が迷い込んだ。元々は仲の良い間柄であったが、迷い始めた頃から、Aが今後の行動について細々と指図をするようになった。彼が主導権を取ろうとすることにBは次第に反感を抱くようになっていった。


 また、襲いくる敵を威嚇するための武器はBが所持しているが、森の内部の大まかな地図はAが所持している。Bにとっては、それが何より気に喰わなかった。暗闇の中の戦闘では、自分の武器が役に立たない恐れがあったからだ。武器よりも地図の方が火急のときに有効に働く可能性が高かった。BはAを背後から切り裂き殺害して、地図を奪ってやろうかとも考えた。しかし、自分ひとりの力で、この広大で危険な森を進んでいく自信も持てなかった。


 Aは手ごろな薪が手に入れば、それに火をつけて焚火を起こして野獣どもを威嚇することでこの闇を乗り越え、やがては、ふたりとも助かるのではないかと見込んでいた。Bは運命の判断に救いを求め、ひとりが犠牲となって死ねば、もうひとりは助かると見込んで、ひとまず別れて各々の判断によって別々に進むことを提案し、暗い茂みの中に逃げ込んでいく。彼はその場から立ち去ったふりをして、茂みの中に身を潜め、Aの後をひそかに付けていくことにした。


 その二時間後、Aが道端で乾いた太い木の枝を発見する。すぐにそれを手に取って火をつけ、足元を照らしながら順調に進んでいけるようになった。彼は運命の加護を信じて疑わなかった。しかしながら、その数十分後、獰猛な野犬の群れにその灯を見つけられてしまい四方から襲われてしまう。抵抗するための武器を持たぬAは、あっけなく喰い殺される。Bは冷静に事態を見極め、野獣たちが立ち去ったことを確認した後で、Aの遺体を踏み越えて暗闇を巧妙に進み、夜の闇が開ける前に、森を抜け出すことに成功した。


 運命の冷酷さを知るならば、『生き残る』ということに、綺麗に馬鹿正直である必要はない。ただ、冷静に慎重にあればいい。濃紺の空に浮かぶ美しい満月が、そのことを諭しているかのようだった。

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