第四話 時計の寿命


 北欧に旅行中、時間つぶしのために、古風な木造りの時計屋に入ることにした。中には無数の骨董品が所狭しと並べられていた。そのどれもが、かつては主に仕え、その人生を見守って来たのであろう。今はどの時計にも主はいない。先に天界へと旅立っていったわけだ。この私にもその時は確実に近づいてきている。


「この店にはどんな時計でもございます。例え、永遠に動く物でも……」


 主人は珍しい客に対して、自慢気にそう挨拶をする。


「自分が死んだ後、時計だけ動き続けているのは気分が悪い。私より少しだけ長生きしてくれれば、それでいい」


 私の要望を聞いて主人はゆっくりとした口調でこう述べる。


「分かりました。では、あと六年と三か月だけ動く物を用意いたしましょう」


 そのとき、信じがたい静寂の中で、部屋中の時計の針の音が響き、まるで、自分の心音のように聴こえた。

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