Ⅱ.

 彼女とはかれこれ15年以上の付き合いになる。

 姿は学生服からスーツになり、食事もファミリーレストランから小洒落たダイニングバーになり、付かず離れずのまま気付けばお互い30代になっていた。


 最後に会ったのはおおよそ1年前の大晦日だ。

 三崎まで足を伸ばし、路地裏に店を構えたいかにも老舗といった風格の寿司屋で脂の乗った鮪に舌鼓を打った。

 ひとしきり町を散策し終えて、相模湾へと沈む夕陽を望む車窓に揺られながら、隣に座る小柄な彼女の口から一言、恋人ができたと報告を受けた日だ。


 告げられたその事実を飲み込むのに必死で、表情を伺うこともできず、絞り出すようになんとか祝いの言葉を繕ったことだけは覚えている。


 以来、定期的にメッセージアプリで連絡は取り合っていたが、会うことだけは頑なに避けてきた。「彼に悪い」「仕事が忙しい」と苦しい言い訳を弄したが、ただただ会うのが怖かった。


 変わることのない関係だと甘えきっていた自身を嘆き、私一人が世界から置いていかれるのだという焦燥感に駆られ、私の知らない表情で彼のことを語る彼女の姿を想像するだけで肚の底に赤黒い澱が溜まっていくような、醜い感情の凝り固まった今の私の姿を見せることが耐えられなかったのだ。

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