第5話
「般若が居た」
「お母さん怖い」
「あ? 二人ともなんだって?」
「なんでもないです! ちゃんと反省してます!」
……母さんこえぇぇぇ。人が真っ直ぐ数メートル吹っ飛ぶの初めて見たよ。
ってか、なんで殴られたはずの二人も痛そうにしてるけど、それだけなの?
俺あんなんされたら顔陥没して死んじゃう自信しかねーよ。
「母さん、俺全く怒ってないし、その、怒ってくれて嬉しいけどそのくらいで辞めて欲しいなぁー」
「まあ、まー君なんて優しいの」
とても素敵な笑顔でおっしゃいますが、俺ドン引きしてるの気付いて下さい。
と言うか、いつも今世の俺が怒鳴ったり淡々と罵ってたりしてたから知らなかったけど、母さんも沸点低い人だったんだ……。
いや、待てよ。
確か調べている時にちらっと見かけた事を今思い出したんだけど、女性同士って以上に厳しくなるというか激しくなるというか。
なんかそんな悩みみたいなやつあった気がするな。
俺には関係ないってスルーしちゃったけど、これはしっかり調べないとな。
そんな心のメモを残しつつ、俺は母さんのご機嫌取りに奔走する。
勿論、その間に柚姉ちゃんと真美には逃げておくようにジェスチャーを送っておいた。
しめしめ、母さんが俺に夢中なうちに無事に逃げおおせてくれたみたいだな。
いやー、しかし本気で焦ったわ。
保護者説明会から帰ってきた母さんが、敏感に俺達に何かがあった事を察知したところから始まった。
俺が二人と相談した事も、柚姉ちゃんに頼った事も、柚姉ちゃんが転校を決心した事も寧ろ褒められてたし、超和やかな雰囲気だったんだ。
だけど、ちょろっと柚姉ちゃんと真美が姉妹喧嘩をしそうになったって話題を出したのがダメだった。
柚姉ちゃんじゃないけど、あれは般若だと思う。
いや、俺には決して怖い顔見せてないんだけど、なんと言うかオーラが出てたんだ。
もしくは鬼神と言っても良いかもしれない。
直接睨まれてない俺ですらそれだけの恐怖を感じたんだ、直接睨まれ蛇に睨まれた蛙状態になった二人には同情を禁じ得ない。
けど、二人の喧嘩を止めた時の様に母さんを止められないって。
まかり間違ってあのパンチ受けたら、俺だと死んじゃうよ。
「うーん、でも心配だわー。柚樹も真美も私の子か疑うほど弱っちぃし。こんな事なら少し鍛えてあげれば良かったわ」
「そ、そうなんだー。でも、俺今の柚姉ちゃんも真美も好きだからなー。勿論母さんも大好きだよ」
えっと、その、捨てられた子犬のような姿見せられても、今は俺を食い殺せるフェンリルが見て来てるように感じちゃうって。
超絶可愛い姿だし、さっきの激しいやり取りさえなければ萌えていたんだろうけど。
うん、今すぐは無理だ。
あれは強烈すぎるって。
今まで見た事なかったからなおさらさ。
でも、なんだかんだ俺に向ける事はないんだろうなって、そう心の底では信じているから自然と大好きだよって言いながら抱きしめちゃった。
まあ、別に俺に向けられたわけじゃないもんな。
それに、今まで母さんって俺を超絶大事にしてくれてたし。
甘々なのに𠮟るべきところではちゃんと叱ってくれてたし、本当に愛情深い人なんだろう。
けど、あれだ。母さんに限らずこの世界の女性って男性が絡むとすさまじい事になるんだろうな。
気を付けなきゃな……え? でもどうやって?
やべぇ、馬鹿な俺じゃ咄嗟に解決策がなんにも思い浮かばねぇぞ。
……無策なのは遺憾だが、問題からは目を背けずに対応出来る事をやっていこう。
そうだ、俺はちゃんと前世の口だけ政治家とかをちゃんと反面教師にするぜ。
「えへへー、久しぶりにこんなに長く抱きしめられちゃった。きゃっ」
おおう、母さんやっぱりかわええなぁ。
まあ、記憶にある前世の俺は、もっとおっさんと言うか爺さんと言うかって年齢だったからなー。
なんか怖いって気持ちより、可愛いって気持ちが勝って来たな。
やれやれ、これならなんとか大丈夫そうだ。
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