第49話 俺は甘党宣言をする!

 母さんに呼ばれて、俺と父さんはリビングへと戻ってきた。戻って来て早々、机の上にお菓子とジュースが置いてあることに気付いた。

 

 ーーー俺と父さんは飲まず食わずで話をしていたのに、母さんと雪菜さんは優雅なお茶会をしながら話をしていたのか。羨ましいな。


 机の上に視線を向けていたことに気付いたのか、椅子から立ち上がった雪菜さんは数種類のお菓子を持って、こちらに近付いて来た。


「燈矢くんはどのお菓子を食べたい?」


 雪菜さんは目の前でお菓子を広げて、首を傾げながら聞いてきた。


 ラインナップはクッキー、チョコレート、煎餅と個別梱包されているお菓子だ。

 どのお菓子も好きだけど、いま一番食べたいお菓子となるとーーーチョコレートかな。色々と悩まされることが多かったから、体が糖分を求めている。


「チョコレートを貰おうかな」

「チョコね! ちょっと待っててね!」


 そう言い、クッキーと煎餅を机の上にあるお皿に戻し、交代でチョコレートをいくつか追加した。

 そして視線を戻して、雪菜さんからチョコレートを受け取った。


「このチョコは季節限定商品だから、もう売っていないところが多いんだよ。あと私のお気に入り!」

「そうなのか。 それを聞くと、俺が食べてもいいのか、と思ってしまうな」


 机の上にはチョコレートは数個しか残っていない。俺の手元には、雪菜さんから渡されたチョコが五個もある。それを踏まえて、雪菜さんの話を聞くと、少し罪悪感を覚えてしまう。


 だけど、その罪悪感がなくなることを、雪菜さんが言ってきた。


「問題はないよ! 私の部屋に買い溜めておいたチョコレートが沢山あるから!」

「そ…そうなんだ」


 あれ…前に雪菜さんの部屋に行った時は、チョコレートらしい物は見掛けなかった。あれから数週間は経っているし、知らないところで買っていてもおかしくはないか。それか秘密の場所に見つからないように隠していたか。


 俺はチョコレートの梱包を破り、中身を取り出して口に運んだ。口に入れた瞬間、口内にチョコレートの風味が広がり、少し齧っただけでとろけた。


「このチョコレート……美味しいな!」


 あっという間に一つ目のチョコレートが無くなり、続けて二つ目のチョコレートを口に運ぶ。

 

「おやおや〜 燈矢君も気に入ってしまったようだね〜 だけど販売は終了してしまっているんだよ」

「雪菜さんの部屋に在庫があるんでしょ? その在庫から数個程貰ってもいいかな?」


 その在庫からいくつか貰えば問題はない。

 何も一袋貰おうとはしていないのだから、少しは譲ってくれるだろう。そう思っていたがーーー。


「ここで残念なお知らせがあります。私の在庫から燈矢君に譲るチョコレートはないのです」


 腕を交差させてバッテンを作りながら言った。


「憶測だけど、かなり在庫はあるでしょ?」

「…………ないに等しい」

「どうゆうこと?!」


 さっき『買い溜めておいたチョコレートが沢山ある』と言っていたのに、いまは『ないに等しい』だと。どう考えても嘘にしか聞こえない。


「さっきは沢山あると言ってーーー」

「はいはい。そこまで問い詰めたら、雪菜ちゃんが可哀想でしょ? そこまでチョコが欲しいのなら、今度お母さんが別のチョコを買ってあげるから」


 母さんが手を叩きながら、横から言ってきた。


「扱いが子供なんだけど…」


 そう呟くと、雪菜さんはふふふっと、父さんは高笑いをした。


「ほら、文句を言っていないで座ったらどうなの?

さっきから立ち話をしているし」

「そうだね」


 リビングに来てから時間にして数分だけど、ずっと立ち話をしている。決して、立ち話をするつとりはなかったけど、完全に座るタイミングを逃していたから、母さんのアシストは有り難かった。


 俺、雪菜さんは隣同士で、父さんは母さんの隣に座った。


「それでお父さんとは何の話をしていたの?」


 座ったのを確認すると、母さんが聞いてきた。


 手に取っていたクッキーを口に運び、そしてジュースを一気に飲み、唇を動かした。

 

「まあ世間話だね。この一カ月の間の話」

「燈矢の話は面白かったぞ〜 出だしから挫けそうになったり、ヒーローになったり、と」

「その話、私も雪菜ちゃんから聞いたよ。 あの泣き虫だった燈矢が…と思ったよ」

「 !? 」


 母さんの話を聞き、雪菜さんに視線を向けた。


 雪菜さんはにやにやとしながら、「そうなんだ〜」と言ってきた。


「……」


 泣き虫の話はしてほしくなかった。

 幼少期の話は俺にとって一部は黒歴史だから、第三者には知られたくない。だけど母さんの所為で、雪菜さんに知られてしまった。


 これは雪菜さんに、俺の弱味を握られたことになるのかな……。


「他の人には秘密だからね?」

「任せなさい! こう見えて、私はかなり口が硬いから情報が漏れることはないから!」

「あと俺の弱味を握ったとか思ったらダメだからな?」


 雪菜さんはサムズアップをした。


「そんな意地悪なことはしないから安心して!」

「そっ…そうか」


 全く根拠はないけど、雪菜さんの笑みを見ていると素直に信じられないんだよな。


 脳内に疑問を残しながら、俺はプチシュークリームを手に取り、一口で食べる。咀嚼をすると、口の中に生クリームが広がり、色々と悩んでいたことが消えていった。


 ーーー俺は甘党宣言をする!


 脳内でガッツポーズをしていると、母さんが「それじゃあ」と言ってきた。

 

「燈矢の子供の頃の写真でも見る?」

「それは良いな! 幼少期の燈矢も可愛いぞ〜」

「なっ…二人とも何を言っているの?! 別に幼少期の写真なんて見せなくーーーむぐっ」

「それは見たいですねぇ〜!!」


 話している途中に口元に手を添えられて、そして重なるようにして雪菜さんが言ってきた。


「むぐっ〜! むぐっ〜!」

「何を言っているか分からないよ〜」

「ほらほら、燈矢に構っている暇なんてないよ! 時間は有限だから、早速見に行こうか!」

「行きましょう!」


 そう言い、俺が反論をする間もなく、二人は別室へと移動した。


「えっと……マジか」


 俺は呆然としながら、ジュースを一口飲んだ。

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放浪癖の父親が息子の婚約者候補を連れて5年振りに帰って来た。 夕霧蒼 @TTasuki

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