第43話 七五三掛雪菜からの助言
翌日。自席に着席した俺は頬杖を付きながら窓の外を眺め、昨夜のことを思い出していた。
ーーーどうして夜間に走っていたのだろう。
事件は解決したとは、また別の不審者が現れて、次は綱嶋さんのことを狙う可能性はある。
一応、夜間でも人通りがあり、街頭もあって明るい場所を選んではいた。それでも最近の不審者は気にせず、不審な行動をすることが多くなった。
ーーー綱嶋さんだってカッコ可愛い系だからね。
そんなことを考えていると、いつもの如く目の前の席から音が聞こえてきた。
視線を向ければーーー。
「大神、おはよう!」
予想通り、こちらに視線を向けて、椅子に座っていた紙崎がいた。
「おはよう。 毎日元気そうで何よりだよ」
「それが俺の取り柄だからな! これで元気がなかったら取り柄がなくなってしまうよ」
「寧ろ、鬱陶しいくらい元気すぎるだろ」
「えっ……それって女子から嫌われるレベル…?」
「知らん」
そんなことを俺が知っている訳ないだろ。
でも元気がある男子が好きという女子もいる場合もあるし、嫌われることはないとは思うけど、それを言うと暑苦しそんだから言うのはやめておこう。
「そう言えば、選抜リレーの自主練とかやるつもりはあるのか?」
他の人に迷惑は掛けたくないから、自主練をするつもりではある。だけどモチベーションがないから、そこから先の行動に移そうとは思えない。
要するに、自分は面倒くさがり屋なのだ。
「まあ予定はある」
「予定……ね」
「なっ…何だよ。 何か言いたいことがあるのか?」
「あのな、予定は未定という言葉があるだろ? 簡単に言えば、大神は当日までやらない可能性が大いにあるんだよ」
「うっ…………」
図星すぎて、思わず変な声が出てしまった。
そんな姿を見て、紙崎は笑った。
「大神さ、分かりやす過ぎるだろ」
「うっ…うるさいな」
反論をしていると、横から「ふふふ」と女性の笑う声が聞こえてきた。視線を向けると、雪菜さんが手を振りながら立っていた。
「雪菜姫、おはよう!」
「おはよう、紙崎君。 そ・し・て燈矢君!」
「お…おはよう、雪菜さん」
「おやおやおや、二人とも名前呼びに変わっているとは、関係性が更新された感じかな〜?」
ほんと紙崎は勘がいいよな。
その勘が別のところで発揮されればいいのに。
「紙崎君の想像にお任せするね!」
「ほほう〜」
「紙崎、顔がうるさい」
雪菜さんの言葉を聞き、紙崎はこちらに視線を向けてニヤニヤしてきた。
いや紙崎が想像しているようなことは、現実的には起こっていないから。まあ何を想像しているのか、俺には分からないけど。
「それよりも面白そうな話をしていたよね?」
「そうなんですよ! 大神は自主練をするつもりがないらしいんですよ。雪菜姫的にどう思いますか?」
「そうだね〜 自主練はした方がいいと思うよ」
そして雪菜さんは耳元に口を近づけてきた。
「折角だし、私は燈矢君が活躍しているところを見てみたいからね!」
「 !? そっ…それは耳元で言うのは反則!!」
「ふふふっ。驚いている燈矢君も可愛いね」
「揶揄わないでよ…」
確実に雪菜さんのペースにハマっていることにため息を吐いていると、トントンと机を叩く音がした。そして俺と雪菜さんで視線を向けると、紙崎が不満そうな顔をしていた。
「そこのお二人さん。俺のことを無視して、二人だけの世界に入らないでほしいんですけど」
「目の前にいて忘れる訳ないだろ」
「私も紙崎君のことは忘れていないよ。ただ燈矢君に秘密の話があっただけだから、ね」
「雪菜姫がそう言うのなら、俺は何も言わないよ」
明らかに雪菜さんの言い方は、さらに紙崎を不満にさせる発言だった。なのに、雪菜さんだからという理由で許されるのはおかしいだろ。
その言い方だと、俺が許されていないように聞こえるから、俺にも何か言ってくほしいところだ。
紙崎は「邪魔者は退散しますわ」と言い、自席へと戻っていった。
「一体、何がしたかったんだ?」
「まあまあ紙崎君はいい人なんだから、これからも大事にした方がいいよ」
「まあ…そうだな」
ここまで気軽に話ができる人は他にはいない。
雪菜さんの言う通り、この友人関係は大事にしていきたいところだ。そして雪菜さんに聞きたいことがあったので、「そう言えば」と言葉を続けた。
「昨日の夜、綱嶋さんがランニングをしているのを見たんだけど、何が知っている?」
同じ家に住んでいる上で、何かしらの情報交換はしているはずだ。俺が知らないところで、女性だけのグループメッセとか作られている可能性はある。
「あー、確かにランニングをするとは言ってたね」
案の定、雪菜さんは何かを知っているようだ。
「その理由を知っていたりする?」
「簡単に言えば、麗奈ちゃんも選抜リレーの選手に選ばれたからだね。いまは帰宅部だけど、中学時代は陸上部で優秀な選手だったらしいよ」
中学時代は優秀な選手だったのに、高校では帰宅部になるのは勿体無い気がする。だけど他人が口出しできるものではないから、この件を本人に追及することは控えた方がいいかもな。
「全然知らなかったよ」
「私や茉莉花ちゃんも、この間知ったんだよね。辞めた詳しい理由は教えてくれなかったけどね」
予想通り、雪菜さんは何も知らないようだ。
それよりも雪菜さんの話を聞く限りだと、女性陣だけどグループメッセがありそうだな。
それを聞きたい気持ちはあるけど、聞いた時にあると答えられたら辛いから言葉を飲み込んだ。
「ここで悩んでいる君に助言を与えよう」
「助言?」
雪菜さんが思っている悩みとは違う気がしたけど、特に気にせずに聞き返した。
「私の推測だと、今晩も麗奈ちゃんは自主練をするはずです。そこで燈矢君も着いて行くのです!」
「…………嫌な顔をされそうな予感」
「大丈夫です! 多分!」
そこで「多分」と付けられると、余計に不安になるんだけど。でも自分も自主練をしないといけないから、助言に従ってみるか。
「まあ頑張ってみるよ」
一抹の不安を残しつつ、俺はランニングウェアを用意するかと思った。
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