第29話 お勧めされたら試着するしかないよね

 複合施設内に入ると、休日ということもあり、多くの家族連れやカップルが視線に入ってきた。

 その人達を横目に見ながら、私達は案内板の目の前まで歩いてきた。


「さて、雪菜ちゃんは行きたいところある?」


 先輩さんは案内板を見ながら聞いてきた。


「そうですね………」


 一階にはイベントスペースに服屋、それと子供商品のお店、二階には専門店街が立ち並び、三階にはレストラン&ガチャ施設があることが案内板を見て分かる。その中で気になるのは服屋になるかな。

 丁度、新しい服を買ってSNSの更新をしようと考えていたし、ここなら普段は買わないような服も少しはあるみたいだから行く価値はありそうだな。


 先輩さんはこちらに微笑みながら、私の返事を待っている。


「服屋を見に行きたいですね」

「服屋ね! それだと………すぐ側にある服屋から攻めてみる?」

「そうですね。 近場から攻めていきましょう」


 案内板から目と鼻の先にある服屋。

 その服屋は普段着ている服とは違い、ネットでよく見かける地雷系やゴスロリの服が置いてあった。


 服屋に着くなり、先輩さんは私と服を交互に見ながら唇を動かした。


「雪菜ちゃんが地雷系やゴスロリの服を着ている姿に興味あるんだけど」

「えっ…絶対に似合いませんよ」

「大丈夫! 雪菜ちゃんのファンである私が断言しよう。雪菜ちゃんなら何でも似合います!」


 先輩さんは私に向けてサムズアップしてきた。


 確かに先輩さんの言うことは正しいのかもしれない。自分では似合ってるいない服も、他人からの薦めで着たら案外似合っている場合もある。


 私のファンの子達も、よくSNSで『雪菜ちゃんのオススメの服を着てみました!』や『自分には似合っていないと思っていましたが、雪菜ちゃんのオススメだったので着たら周囲から可愛いと言われました』などのコメントが来ている。ファンの子達にオススメしておいて、自分はオススメされても着ないのはダメだよね。


 何事も挑戦が大事。これも挑戦の一つ。

 私は目の前にあった二着を手に取り、先輩さんの方に視線を戻した。


「先輩さん。 私、この地雷系とゴスロリの二着を試着したいと思います」

「分かった。 早速、試着室に移動しようか」

「はい!」


 そして試着室に着き、いま着ている服を脱ぎ、試着するために持ってきた服へと着替える。


 最初に着替えるのはーーー地雷系の服だ。

 種類はチャイナワンピース型。特徴としては肩出しと、腰回りに付けるベルトによって目立つスタイル。そこに手元にはないけど、チョーカーやガーターなどを付けたらダークガールになれるだろう。


 着替えが終わり、試着室のカーテンを開け、外にいる先輩さんに声を掛けた。


「ど…どうかな?」


 先輩さんは微笑み、そしてサムズアップをした。


「完璧です! これは大神君に自慢する案件だね!」


 そう言うと、先輩さんはポケットからスマホを取り出し、何やら画面を操作すると、こちらにスマホを向けるとーーーカシャという音がした。


「せ…先輩さん?! 一体、何をしているんですか」

「ふふふっ…この写真の使い道を知りたいか?」

「知りたいです」

「その心意気に答えてあげよう」


 何だかんだで教えてくれるんだよな。

 前回も大神君が気になったことを聞いたら、少しだけ面倒臭い答え方だけど教えてくれた。


 先輩さんは「それは」と言葉を続けた。


「大神君に写真を送るためさ!(あとは私が観賞用で楽しむためでもある)」

「お…大神君に送る…だと?!」


 そのあとの微かに聞こえた内容も気になるけど、後者の方は特に問題はないからスルーしよう。


「こんなに可愛い服を着ているのに、そんな雪菜ちゃんを見れないなんて可哀想だと思わないか?」

「それを本人に聞かないでくださいよ……」

「一応、確認することは大切だからね。 そうゆう訳だから、二着目の服も早く着替えてね!」

「それは……写真を撮るから?」

「いえーす!」


 先輩さんのテンションにため息を吐きつつ、私は渋々二着目の服に着替える準備を始めた。


 二着目の服はゴスロリ服になる。

 ゴスロリ服でも様々な種類があるが、私が選んだのは軍服コスチュームの服だ。目の前に丁度あり、とても目を惹かれた服である。


 普段着ない服であるため少し着替えに手間取ったが、無事に着替えが終わり試着室のカーテンを開けて声を掛けた。


「着替え終わりましたよ」

「おぉ…!! 雪菜ちゃん…カッコいいよ」

「あ……ありがとうございます」


 面と向かって言われると、少し恥ずかしい。

 試着室にある鏡で自分の姿を確認すると地雷系の可愛い系と打って変わり、先輩さんの言う通り、確かにカッコいい雰囲気が出ていた。

 

 ーーーここに刀とかあったら様になるんだろうな。


 そんなことを思っていると、目の前からカシャ、カシャと音が聞こえてきた。視線を向ければ、大神君に送るようの写真撮影を始めていた。


「先輩さん!! いきなり撮影はやめてください」

「あまりにもカッコ良すぎて、私の中の欲望が抑えきれなくなってね」

「欲望に忠実すぎますよ…」

「でも地雷系の撮影でもキメポーズしてくれたから、ゴスロリもキメポーズをしてくれるよね?」 


 それは大神君に写真を送るからと言われたら、完璧な写真を撮りたいに決まっている。

 

「…………しますよ」

「さすが雪菜ちゃんだね!」


 先輩さんはスマホをこちらに向けると、カシャカシャとスマホから音をさせながら撮影した。


 それから試着と撮影を数着ほどして、私達はお店を後にして、休憩スペースで椅子に座っていた。


「という訳で、早速大神君に写真を送りまーす!」

「撮って出しじゃないですか」

「そうだよ〜 新鮮な方がいいでしょ〜?」


 その言い方だと、私は魚かとツッコミたくなる。

 でもアイドル活動でもライブ後に撮った写真を、その数分後には販売することはよくある話だ。


 まあ辞めてほしいと言っても、先輩さんは問答無用で送信ボタンを押すんだろうな。


「はぁ…もうご自由にどうぞ」

「雪菜ちゃんからの許可もおりたので、画面をポチッとな!」


 私に大神君のトーク画面が見えるようにし、そしてニヤニヤしながら【送信】ボタンをタップした。


「さてさて、何て返信が来るのか楽しみだね!」

「………そうだね」


 その言葉に納得しつつも、軽く返事を返した。


⭐︎


 自室の部屋に俺の声が響き渡っていた。

 現在、俺は正拳突きをしている。

 綱嶋さんからの警告ーーー『気になるコメント』に思うことがあったので、それに対しての対処として正拳突きから始めることにした。最終的には簡単に学べる護身術を身に付けたいと思っている。

 

「…………っん?」


 机の上に置いておいたスマホが震えた。

 正拳突きをするのを辞めてスマホの画面を確認すると、先輩からメールが来ていた。


「先輩からのメール……嫌な予感がするな」


 そんなことを思いながらメールをタップすると、そこには数枚の写真が送られてきていた。


「っな?!」


 その写真は七五三掛さんが写っていて、普段は見かけない服を着ていた。

 これは先輩から強要されて着たのか、それか自分から着たのか分からない。だけど一つだけハッキリと自分の心に浮かぶ言葉があるのは事実。


 ーーー七五三掛さんは何着ても可愛いし、カッコよく着こなせるんだな。


 そんなことを思いつつ、さすがに先輩には送ることはできないので、別の言葉を送ることにした。


『とても似合っていますね。あと七五三掛さんに迷惑をかけないでくださいね』


 俺は【送信】ボタンを押した。


 本音は本人を前にして言った方がいいからね。

 

 


 

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