第23話

 私はかつてサー・ガレンと呼ばれた者だ。


 何度も生まれ変わり、エリンを探し続け、大魔法使いエリンの導きでついに始まりの場所へと送られた。


 彼女の言葉を信じ、始まりに戻ればエリンと幸せになれると願い、目を閉じて光に身を委ねた。そして目を開けた時、私はそこにいた。


 あの村、あの瞬間、エリンと初めて出会った場所に。


 だが、大魔法使いエリンの言葉を胸に刻みながら、私はそこで真実を理解した。全てが私のせいだったのだ。


 目の前に広がるのは、あの懐かしい村だ。傷だらけの私が倒れ、十歳の少女エリンが小さな手で私の傷を癒してくれたあの場所。彼女の無垢な笑顔、彼女の純粋な優しさが私の魂を救った瞬間。

 だが、今、その記憶が私を刺す。エリンは私を助けたから幸せになれなかった。彼女はただの女の子でありたかったのだ。それなのに、私は彼女を首都へ連れていき、彼女の幸せを壊してしまった。



 思い出す。あの時、私は騎士としての誇りと使命感に駆られていた。エリンの魔法の才能を見て、彼女を王に仕えさせれば栄誉を得られると考えた。私は彼女の手を引き、村を離れ、首都へと向かった。


 彼女は最初、戸惑いながらも私を信じてついてきてくれた。だが、王城に着いた時、事態は私の予想を超えた。エリンの力は王の目に留まり、彼女は自由を奪われ、幽閉された。彼女はただの女の子でありたいと願ったのに、私は彼女を戦いや権力の道具に変えてしまったのだ。


 彼女の小さな体が王城の冷たい石の間で衰えていくのを、私は見ていた。彼女の笑顔が消え、瞳から光が失われるのを、私は止められなかった。そして、彼女は死んだ。王城の奥深くで、孤独の中で、私から全てを奪われたまま死んでいった。私はその時、自分の愚かさに気づかなかった。


 彼女を失った後も、輪廻の中で彼女を探し続け、彼女との再会を夢見てきた。だが、今、始まりに戻り、全てを理解した。



 エリンが幸せになれなかったのは、私が彼女を助け、首都へ連れていったからだ。

 全て私のせいだった。


 私は膝をつく。村の風景がぼやけ、涙が地面に落ちる。



「エリン…お前がただの女の子でありたかっただけなのに…私がお前を壊したんだ。」


  私の声は震え、悔恨が胸を締め付ける。あの時、彼女を村に残し、私一人で首都へ戻ればよかった。彼女に癒してもらっただけで満足し、彼女の人生に踏み込まなければよかった。だが、私は彼女を愛し、彼女を守りたいと思った。その愛が、彼女を不幸に導いたのだ。


 始まりに戻った今、私は彼女を救えない。


 彼女はすでに私の手からこぼれ落ち、輪廻の中で遠くへ行ってしまった。大魔法使いエリンが言った「お前たちは始まりの場所でしか幸せになれない」という言葉が、皮肉にも私の罪を突きつける。



 始まりで幸せになれたのは、私が彼女を連れ出す前だけだった。それ以降、私は彼女を不幸にし、彼女を死なせた。



「エリン、ごめん…全て私のせいだ。」



  私は地面に額を押し付け、泣き崩れる。彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ。あの純粋な少女が、私の愚かさで失われた。


 私は何度も生まれ変わり、彼女を探したが、それは私の罪を償うためではなく、ただの執着だったのかもしれない。彼女はもういない。私のエリンは、私の手で壊され、永遠に失われた。私は立ち上がれない。始まりに戻った意味すら、私にはもうわからない。ただ、彼女への謝罪だけが私の心に残る。



「エリン…許してくれ…。」

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