第14話

 私はサー・ガレン、幾度も繰り返される人生を生き、エリンと出会い、愛し、そして失ってきた老騎士だ。


 どの世界でも、彼女は私の魂の半身であり、私の光だった。彼女の笑顔を追い求め、彼女を守るために剣を振るい、彼女の「世界で一番大好き」という言葉に救われてきた。


 だが、この世界は違った。次の人生が始まり、私は彼女を待った。野原を歩き、村々を訪ね、戦場を駆け抜けた。だが、エリンとは出会えないまま、私の人生は終わりを迎えた。


 この世界での私は、辺境の小さな町で鍛冶屋として生きていた。五十を過ぎ、白髪と皺に覆われた顔は、かつての騎士としての威厳を失っていた。剣を手に持つことはなく、代わりにハンマーを握り、農具や馬具を打ち続けた。


 毎日、仕事の合間に町の入り口を見やり、彼女が現れるのを待った。野花を摘む少女の姿に、彼女を重ねた。遠くで響く笑い声に、彼女の声を想像した。だが、彼女は現れなかった。


 私は思う。なぜだ。なぜ、この世界でエリンと出会えなかったのか。繰り返される人生の中で、彼女との再会は私の定めだったはずだ。彼女が魔法使いとして、貴族の娘として、王女として、ただの村娘として、私の前に現れるのが、私の運命だったはずだ。だが、この世界では、彼女の気配すら感じられなかった。私の魂は空っぽで、彼女を探す衝動だけが私を動かしていた。


 ある夜、私は鍛冶場の炉の前で一人、過去を振り返った。彼女が崖から落ちた最後の世界、彼女が「今度こそ一緒に幸せになろう」と言った瞬間、彼女が私の手を握り「大好きだよ」と笑った記憶。それらが私の心を苛む。彼女を救えなかった罪悪感、彼女を待たせてしまった後悔が、私を蝕んでいた。私は呟いた。「エリン、どこにいるんだ。お前がいない世界なんて、私には耐えられないよ」と。


 年月が流れ、私の体は衰えていった。町の人々は私を「頑固な老鍛冶屋」と呼び、私の作る道具を頼りにしていた。だが、私の心は満たされなかった。彼女がいないこの人生は、私にとって意味のないものだった。病が私を襲い、ベッドに横たわる日々の中で、私は彼女の名を呼び続けた。「エリン、エリン……どこだ、お前は」と。だが、彼女の声は聞こえず、彼女の手は私の手を握り返さなかった。


 そして、私の人生は静かに終わりを迎えた。息を引き取る瞬間、私は最後に彼女の笑顔を思い浮かべた。「エリン、次こそは……次こそはお前に会えるよな」と願いながら、目を閉じた。


 この世界で彼女と出会えなかったことは、私にとって最も深い悲しみだった。彼女のいない世界は、私にとってただの空白だった。


 エリン、私の愛する存在。お前と出会えなかったこの人生は、私にとって永遠の空白だ。お前が野原で笑い、私を呼ぶ声が聞こえないこの世界は、私を試す試練だったのかもしれない。だが、私は信じている。次の世界で、お前と再び出会えると。お前がどこかにいて、私を待っていてくれると。


 どうか、エリン、次の世界で私を見つけてくれ。私はお前を探し続ける。お前がいない人生を味わった今、私はお前との再会を何よりも願う。お前の「大好き」をもう一度聞けるなら、私はどんな運命でも受け入れるよ。私のエリン。私の世界で一番大好きな女の子。


 次の世界で、必ずお前に会うよ。


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