第4話 とりま現状報告
「取り敢えずの共通の認識として、ここが何処なのか、何で来たのかも分からない、て事ね」
自分で言うのもなんだけど、何の記憶もないのにここまで集まって来た崖小、メンタル強くね? 普通は混乱するくね?
起きた時点でまあいいやとか言ってる俺が言える事じゃないんだけどね。
体育館に集合した俺たち崖小児童は、個人個人で情報交換をしていた。
1年生や2年生はまだよく分かってないみたいだけど、事情を知った3年生以上の学年は皆苦い顔だ。
「本当に、ここって何処なんだろうな…」
俺は思わずそう呟いた。
折角崖小の皆が集まったってのに、この情報だけは絶対に出てこなかった。
一番は元の世界に帰る方法を見付ける事だけど、この世界はどんなルールを司っているのかも分からない。
ゲームでも小説でも漫画でもいいから、出来るだけ早くこの世界の情報が欲しかった。
頬杖をついてそう呟いたのが聞こえたのか、恐る恐るといった感じで、一人の男子児童が話し掛けて来た。
「あの、ウミ先輩」
「ん、どしたん“ショウ”?」
前髪も後髪も限界まで切ったこいつは
4年生の代表委員で、おどおどしてるけど根はしっかり者な頼れる子だ。
ショウは自信なさげに、でも、俺にとっては最重要な情報を与えてくれた。
「おれ、多分ここが何処か分かったかもしれないです」
「本当か!?」
俺は思わず、大声を出してショウに聞き返した。
肩を掴んでしまったので、ショウはビックリした顔で俺を見つめて固まってしまった。
俺の大声に驚いた、他の児童もこちらを見てくる。
「あ…ごめん、ショウ」
「あ、いや…」
俺ははっとして、ショウの肩から手を離した。
ショウは未だに目を見開いたままだ。
「どうしたの、ウミ。そんな大声出したら皆驚いちゃうよ」
リクがショウの背中を擦りながら、俺を宥める。
樋口先生という大人が居るからか、幾分か雰囲気が柔らかくなった気がする。
「その、ショウがこの場所が何処か分かったかもって言うから、つい…」
リクは俺の言葉を聞いて納得したのか、何回か頷いて戻っていった。
俺はもう一度口を開こうとするけど、遠くのリクからの視線が痛いくらいに刺さって、少し思い直す。
分かってるって、今度は声抑えるからその目やめて。
「で、ショウ。ここは、一体何処なんだ?」
気を取り直して、ショウに向き直る。
俺の問いに少し躊躇ってたみたいだけど、意を決して言う。
「ここ、俺がプレイしてた『ライガー・シックス』っていうゲームの世界に似てるんです」
──『ライガー・シックス』。
それは、突如として日本に現れた最強のネットゲームだ。
当時は無名だった不朽の名作RPGゲームで、リリースからものの数日で万を超えるプレイヤーを生み出した。
製作者は不明。
ソーシャルゲームにも関わらず課金要素が一切ない事から、“さすらいのエンターテイナー”として注目されていた。
俺も一回だけプレイした事があるけど、それはそれは最高のクオリティだった。
人族と魔族の
その世界には勿論『スキル』というものが存在していて、誰もが自由に行使する事が出来る、一種の身体能力だ。
スキルは人によって成長したり進化したりするので、シナリオを進めていくにつれて、プレイヤーの側面が出てくる。
このゲームの何よりの特徴は、主人公の見た目を自分好みにカスタム出来る事と、好きに職業を選んで鍛えられる事だ。
自分に似せるも良し、理想の姿を反映させるも良し。
まさに妄想を現実に出来るような仕様で、経験値を貯めれば貯める程、扱えるパーツも選べるようになるので、やり込みの要素も十分にあった。
ゲームの難易度が俺には高すぎたので、中断したけど。
とにかく、人気になる要素しかないゲームだった。
「はー、マジかあ。よりによってゲームの世界かあ」
ソラがため息を吐きながら、空を仰いだ。
ショウの言葉を信じ、一旦外の景色を見せてみると、確かに作りが同じものらしかった。
わざわざ森の中を飛んでいる蝶型の魔物の名前を言って見せたのだ、これで信じない訳にはいかないだろう。
こうして共有してみると、一層表情を暗くする者と楽しそうに笑う者とで綺麗に別れた。
因みに、俺は後者の仲間に入る。
だって、どう考えても楽しそうじゃん?
「…本当に、家に帰れないんですね」
そう力なく呟いたのは、意外にもコトミだった。
一番精神力強そうなのに、几帳面なぶん繊細だったっぽい。
一番悲しそうな、暗いオーラを纏っている。
「家に帰れないのは悲しいけど…でもさ、勉強から解放されたんだし、私は嬉しいな」
そんなコトミとは対照的に、ホノが笑いながらそう言った。
コトミは、そんなホノの言葉に、ハッとしたように顔を上げた。
確かに、コトミとホノの家は幼馴染同士、勉強しろと口酸っぱく言ってくる教育熱心な母親を持っていた。
コトミはそんな母親のプレッシャーから逃げるように、崖小では楽しそうに過ごしていた。
ホノは
平均の小学生よりも、2倍も3倍も頭が良かった。
勉強なんてしなくてもテストの点数は取れるのに、何故母親はこんなにうるさいんだろう、そんな風にしか思っていなかったらしい。
お互い『勉強』を良く思って居なかった者同士、思いが一つに重なった。
「…言われてみれば、そうなのかも」
ホノの言葉を自分の中で噛み砕き、反芻させながら、コトミはそう結論付けた。
こうして学校ごと異世界に来てしまったのだから、勉強なんて所じゃない。
今までコトミを縛り付けていたものは、とっくのとうに意味をなさなくなっていた。
「そっか。もう、勉強しなくて、いいんだ」
胸の辺りを抑えて、コトミはそう呟いた。
顔はめっちゃ嬉しそうに笑っていて、隣に居るホノと笑いあっている。
異世界転移とかいう有り得ない現象が起きた今、俺たちみたいな自由な小学生を縛れるものはない。
親という唯一子供の心を縛り付けている者も居ない、こんな自由な世界。
困る人が居るというのか。
「ねえショウ、『ライガー・シックス』っていうのは、一体どんな仕組みなの?」
ふと思い出したかのように、ショウと同じ4年生の女子が聞いた。
こいつは
ショウの同級生で、人前で余り大声を出せないショウの代わりに発表する、頼もしい子だ。
ワカナにそう問われ、ショウはしどろもどろになりながらも、『ライガー・シックス』のキャラの作りについて説明した。
「えっとね、まずこの世界には『スキル』が存在してるんだ。スキルと言っても、一概に自分自身を強化するだけだとか、遠隔で攻撃するだけとかじゃなくて、色んな種類がある」
言葉だけで説明するのが面倒くさくなったのか、何処からともなくスケッチブックとペンを取り出して、イラストを描きながら続ける。
「スキルは大きく分けて三つあって、一つ目は自分自身を武器にしつつ、能力を高める【強化系】。これが一番オーソドックスなやつだね」
ショウはそう言いながら、筋肉ムキムキな男のイラストを描いて、その周りを漂う光みたいなのを付け足した。
これが強化中の様子らしい。
「二つ目が、スキルを使う事で何かを生み出す【生産系】。何の素材も技術もなしに武器を作ったり、食べ物も生み出したり出来る。これは本人の想像力によって変わるよ」
今度は掌のイラストを描いて、その上に何らかの物体を作り出す補足みたいなのを足している。
あれ? なんかショウ、絵上手くね?
「三つ目が、この世界に元々存在している自然や力を操る【超常系】。簡単に言えば、炎とか水を操ったり、この世界の魔獣を使役したり出来るんだよ」
最後と言う事で、余ったスペース全部を使って、魔物の絵を描く。
そこに人間のマスコットを描いて、あたかもその人間が魔物に指示を出しているかのような絵面になった。
一通り説明し終えると、児童全員から拍手が沸き起こった。
俺もそこまであのゲームをやり込んではいなかったので、ショウの説明でようやく概要が掴めた。
「やっぱり、ゲームの世界だからこその楽しさだよね。現実じゃ有り得ない事も、こうやって当たり前に出来る所とか」
ウンウンと頷いて納得していると、リクがそう話し掛ける。
確かに、これはゲームだからこの要素で、現実どころか、元の世界では有り得ない現象なんだ。
だけど、俺はその『有り得ない』の連続で、救われた。
あの時、俺がスキルに目覚めていなければ、崖小の内の誰かを失っていたかもしれない。
悲しみにくれながら、過酷な世界を生きたかもしれない。
俺はこの『有り得ない』世界を、『有り得ない』力を持ってして生きるんだ。
どうにか皆で生きて、全て解消したら元の世界に帰る方法を探そう。
それまでは、俺はこの力を振るい続ける。
現実に帰る、その時まで。
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