第16話 ◎「夢」◎

星がむれをなして黒い空をゆく。

氷を吹き出して小さくなっていくもの。

ぶつかり合ってくだけるもの。

大きな星の大気につつまれもえつきるもの。

星のきょうだいたち。さようなら。さようなら。

かたくからだをたたんで大気圏に突入する。

美しいほのおが。

ほのおのゆりかごが、時をまきもどす。

ちいさく、ちいさく、まきもどる。

ちいさく。


あれ……?


トゥーリはふとあたりを見まわした。真っ黒なくうかんにぽつりと立っていた。真っ黒だけど、暗くはなかった。トゥーリが一歩ふみだすと、足元はぱしゃぱしゃとあさい水のようにはじけた。


しゅうしゅうと、何かがくうをさくような音がしている。トゥーリが見上げると、満天の星空があった。その星空を、光のおびが走ってゆく。トゥーリが足元をのぞき込むと、そちらも満天の星空だった。


トゥーリはしばらく、真っ直ぐ歩いてみた。ただ、星空をきょろきょろとながめていたので、もしかしたら少しくねくね曲がったかもしれない。光のおびはなおものびる。しゅうしゅうと、まわりの星をまきこんで。


トゥーリのゆくてに、何か見えてきた。しわくちゃに黒っぽく枯れたゆりの花。それが先の方までぽつりぽつりと並んでいる。


いち、にい、さん、し……


トゥーリがなんとなくそれを数え始めたとき、


トゥーリ。


と、声がした。声の方をふりむいたら、トゥーリより少し年上くらいの、長い黒かみの女の子が立っている。表じょうはよく見えないけれど、なんとなく、ほほえんでいる気がした。


トゥーリがよんだら、どこへでもかけつけるよ。

女の子はやさしく言った。トゥーリがどういうことかよくわからなくて首をかしげると、女の子はトゥーリの右手のポケットのあたりをゆびさした。


トゥーリが中をのぞいてみると、しんじゅをあしらったかみかざりが入っている。


トゥーリが何かたずねようとしたとき、女の子は、ほら、と、上空の光のおびをゆびさしたので、トゥーリはそちらをふりあおいだ。


ぱきん


光のおびは、高くすんだ音をたてて二つに割れた。そうしてそのまま、別々の方向へ、しゅうしゅうととんでゆく。


わたしのかたわれ!


トゥーリが叫んで手を伸ばすと、黒い木の天井が目にとびこんできた。ごそごそ、と何かのうごめく気配がして、


トゥーリ。


と、低くおだやかな声がした。ラースが起き上がって、トゥーリをのぞきこんでいた。


悪い夢か?


心配そうにラースが言うので、トゥーリは、はた、と考えてみた。夢を見ていた気がするけれど、何の夢だったかはきれいさっぱり忘れてしまっていた。だからラースには、大丈夫、と笑ってみせた。少しだけ心ぞうがどきどきしている。


ラースはふとんをていねいにトゥーリの肩の上までかけなおすと、その上からぽん、ぽん、とやさしくなでてくれた。暗やみの中でひとみに月のあかりがさして、そっと細められる。そのあたたかな空色がトゥーリの心をきゅ、と、しめつけた。


いつまでもこうしていられたらいいのに、と、トゥーリはなぜか、このときに終わりがくることを知っているかのように、切なく思った。

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