トゥーリの物語

こあら

第1部 トゥーリの物語

第1章 

第1話 ■「手紙が来る」■

トゥーリの一日は、ポストにお手紙のかくにんをしにいくことからはじまる。朝おきたら、まずげんかん先のポストを見にいくのだ。


ポストにはいつも、しんぶんと、チラシがいくらか入っている。しんぶんはラースにわたして、トゥーリはカラフルなチラシをえらんで、花かざりを作るのだ。作り方は、ともだちのラウリにおしえてもらった。


トゥーリとラースの家はさいていげんのものしかなくて、ちょっと色が少ないから、花かざりをたくさん作って、ラウリの家みたいにきれいにするのだ。


ラウリの家には、花がたくさんあって、いつも花束や苗を持ってきてくれるけど、ここは土がやせていてじゃがいもくらいしか育たない。あとはばらがなぜかひとかぶだけがんばって咲いている。


だけどトゥーリはじゃがいもとばらが好きだった。じゃがいもはつるがにょきにょきのびて、ころんとしたのが育つ。ひとつひとつあいきょうがあって、そしておいしい。ばらはきれいでいいかおりがした。


だから、トゥーリは、家のすぐ隣にある小さなじゃがいも畑と花だんのやせた土に、いつもがんばってくれてありがとう、これからもがんばろう、という気持ちをこめて、ラウリにもらったえいようざいをいってきおとしたごはん水をあげる。土がかわいているときだけだ。あんまりしめらすと、じゃがいももばらもだめになってしまう。それは、ポストをかくにんしたその次にやる、トゥーリのおしごと。


今日、トゥーリはなんとなく早くおきた。


今日は、お手紙がきているかも。


なんとなくそう思って、カーディガンをはおってげんかんのドアをあける。一面、まだひくいあさひにてらされた、うすもも色の大地が広がる。


このあたりに、家はここしかない。道もない。お店もない。ベテランのゆうびんはいたつやさんだけ、ここを覚えていて、毎朝しんぶんとチラシと、ときどきお手紙をとどけてくれる。


ポストの口からベロみたいにしんぶんがとび出ている。ゆうびんはいたつやさんはとても早おきらしくて、トゥーリはいまだに、ゆうびんはいたつやさんがやってきてポストにしんぶんとチラシを入れてくれるところを見たことがない。


ベロンとしたしんぶんを引っぱり出すと、カラフルなチラシもつられてヒラヒラととび出てくる。今日は三まいだ。


トゥーリはようじんぶかく、ポストの口をあけて中をのぞいてみる。


あった!


きちんとおぎょうぎよい、長四角い白いふうとう。きれいな絵のかかれた切手、何やらきごうのかかれたまるいスタンプ、なみなみのスタンプも。


じゃがいものツルみたいに、細くてしなやかな字で、「ラース」とかかれているところを見つけた。トゥーリは、「ラース」「トゥーリ」「ラウリ」の三つのことばだけは、文字がよめた。


まちがいない、お手紙だ!


げんかんのドアまで走っていってから、じゃがいもにごはん水をあげるのがまだだったと思い出して引きかえす。


夜のあいだに、夜ツユ集めキ(ずっとずっと前にシモさんが作ってくれたらしい)からタルにたまった夜ツユを少し、ジョウロにうつして、えいようざいをいってき。


いつもがんばってくれてありがとう、これからもがんばろう。


それが終わったら、かけあしで家の中にもどる。

ラースももう起きていて、ちょうど朝ごはんのじゅんびを終えたところだった。


かるく片面をやいたライ麦パンに、とろとろにとろけたチーズ、ほくほくに茹でたじゃがいも、ハチミツ入りのお茶。トゥーリの大好きな朝ごはん。


手とかおをあらって、せきについて、両手をあわせて、いただきます。


お手紙きてたよ。


トゥーリがパンをほおばりながらほうこくすると、ラースはお茶を一口のんで、うん、と言った。まだねむそうだ。ラースは夜ふかしで朝がにがてだから。


お手紙、だれからだった?


トゥーリはお手紙が好きだった。お手紙が来ると、だいたい、どこかに出かけることになるからだ。人に会うようじだったり、どこかに何かを取りにいくようじだったり、まちに行ったりもした(ラースのおしごとは、ふつうのひとではとりにいけないものをとりにいって、ヨナスさんのおみせにとどけることだ)。


ラースはもう一口お茶をのんで、お手紙を見た。

トゥーリはラースが口をひらくのをじっとまつ。前に、しつこく、ねえだれからだったのねえねえと問いつづけたら、ねおきでふきげんなラースに、えいっとデコピンされたからだ。けっこういたかった。


けさのラースはめざめがよかったようだ。すぐに、いつもどおりヨナスさんから、色んなちゅうもんがまとめてきた、とおしえてくれた。


じゃあお出かけだね!


おしごと。


そうだった!


トゥーリはうれしくなって、チーズののったパンをムシャムシャ食べた。とろけたチーズがおいしくて、ほっぺたまでとろけそうになった。


ラースもやっと、もそもそと一口パンを食べはじめる。ラースはちゃんと起きるまでじかんがかかるけれど、食べはじめさえすれば早いのだ。二口めにはくわっと半分、三口めにはぺろりとチーズパンを食べ終えた。


トゥーリも負けじと大きな一口。むせるなよ、と言われたやさきに、げほげほとむせて、あわててお茶をのんだ。ふうとひといきついて、ごちそうさまでした。


のこりのお茶をゆっくりのみながら、ラースはしんぶんをよむ。そのあいだにトゥーリは、花かざりを作る。今日のチラシは三まいとも赤っぽかったから、おとといと、その前の日にきた赤っぽいチラシとあわせて、ちょうど五まいになる。昨日のチラシは青だったけど、青はまだ五まいたまっていない。たまった赤いチラシを五まいかさねて、山おり谷おりを小さくくりかえして、まんなかをひもでしばって、一まい一まい広げていくと、ポンとまあるい花かざりができるのだ。


トゥーリが花びらのさいごの一まいを広げ終わると、ラースは、行くか、と立ち上がった。トゥーリはできたばかりの花かざりをカーテンにくくりつけて、急いで着替えてポシェットを肩からかけて、げんかんでたいきする。


ラースも着替えて、色んな道具が入ってるカバンにパンと干し肉と水とうをつめこんで、じゅんび完了。


今日はどこ行くの?


そうだなあ。

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