現在


「うわぁ!なんか本当に、航くん結婚するんだね」 


「そうだよ。ゆいももうすぐなんじゃない?」 


「え〜?全然だよ!航くんまで結婚しちゃったら、誰が私を守ってくれるのよ〜」

 

 


 冗談めかした言い方が、2人の気の置けない関係性を浮き彫りにする。


 私の旦那様と談笑するのは、いとこの唯ちゃん。年は3つ離れているが、親戚の中では1番年が近い子らしい。


 いつだって彼女を見る彼の目はとても優しい。彼女が、彼の最愛なのではないかと勘違いしそうになるくらいには。


 口元に笑みをたたえながら彼らを見守る私に、聞き慣れた声が届く。

 

 


千実ちさね、おめでとう」



 

 男性にしては長い髪をハーフアップにまとめあげ、きっちりとスーツを纏った麗しい男。それは幼馴染の光希みつきだった。


 


「おまえが結婚とは。しかも10年って」

 

「ふふ、もはや執念だよね。光希も早く、幸せになんなよー?」

 

「うるせー、急にマウントとってくんな」



 

 軽くどつき合い、カラリと笑う。


 光希は数年前に出会った子に一途に恋をしている。名を唯ちゃんというのだが、彼女には想い人がいた。高浜航平さんという名の、いとこだそうだ。

 



「光希」

 

「んぁ?」

 

「ありがとう。私あの3年がなかったら死んでたかも」

 

「…大げさなやつだな。おまえこそ、幸せになれ」

 

「当たり前!じゃあね!」



 

 私の幸せは、最愛の人が幸せであること。私の弛まぬ努力が最愛の人を幸せにする。そう信じている。


 

 私はあの幸せな3年間を、決して忘れはしないのだ。

 

 彼にとっては何気ない日常であっても、私にとっては砂漠のオアシスのようだった。その事実が、私の人生の舵をきったのだった。 


 

 

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