第3話 あやしい。サンダル履きでなければマナー違反だっていう「あやしい島」に連れていってくれるこの船も、あやしい…

「お前の頭は、パンプリンか!」

 新しい風を手に入れる冒険って、きびしいんだな。

 「…」

 「わからないのなら、俺と契約をしろ」

 「わかったよ」

 すんなりと魔人に応じ、契約がすんなりと進んでいた。

 「マツダよ。必ず、ソロアフターの新しい風をおこす扇風機を手に入れるのだぞ」

 「わかった、わかったよ」

 「契約、完了だな」

 瞬間、魔人が消えたときのように、彼の意識もフッと遠のいた。

 「…ザザ…ザザア…」

 聞こえてくるのは、波の音か。

 彼は、見知らぬ海岸に倒れていた。

 「あ…」

 倒れていた場所から起き上がると、一艘のボートが浮かんでいたのが見える。

 風はない。

 「小さい船だな。 1人乗りか?」

 船内からは、こう書かれた看板が突き出ていた。

 「新しい風を手に入れるクエスト」

 明らかに、さそっている。

 船に近付くだけで、機械的な音声が流れてきた。

 「さあ、乗ってください」

 「?」

 操縦席に乗り込んだまでは、良い。

 が、どうやってこの船を動かせば良い?

 「アパオシャ号、発進!」

 またもや、機械的な声が響いた。

 どうやらそれが、船の名前らしい。

 ブルブルブル…というエンジン音を出し、船が動きはじめる。

 「それが、この船を自動運転で動かす合図です」

 いつまでも、音声は機械的。

 「マツダ様?サンダルを履いてください」

 操縦席の横に置かれているサンダルを履けと、いうことか。

 また、機械的音声が響いてきた。

 「これからいく島は、デリケート。サンダル履きでなければ、マナー違反なのです」

 履いている靴は、海に流せとも言う。

 どこかの島に、到着。

 「ちぇっ…デリケートな島、か」

 何かが、気に入らない。

 海に捨てずに隠し持っていた靴をこっそり取りだし、履いてみた。

 「これは良い!歩きやすい!」

 島内をうろつくと、やがて、集団の声が聞こえてきた。

 ウサギやカバ、イノシシ…。

 小ぶりの、ゾウとか。ライオンも、シマウマっぽいのもいた。

 まるで、ちょっとした動物園。

 皆、二足歩行をしている。

 この動物集団は、かぶり物をしている人間たちなのか?

 「こっわ…」

 が、冷静になれば、おびえる必要はない。

 彼が働く会社の社長なんて、ネコなのだ!

 「やあ!」

 彼が皆に勢い良くあいさつすると、集団のうちのシマウマが、彼に手招きをしてきた。

「おや、あなたも、あのマジックショーを見にきたのですか?」

 「マジックショー?」

 何のことやらわからない、彼、

 すると、ウサギもまた語りかけてくる。

 「もう、いきましょう!」

 ショーがはじまる時間だと、いう。

 動物集団の歩くあとについていくと、赤い屋根をしたおんぼろ小屋が見えてきた。

 見かけはしょぼいが、大きい小屋だ。

 「会社員が、30人は入れそうだな…」

 小屋の中に入ると、ひげが四方にピョンピョンはねる、やや小柄の二足歩行ネコが出迎えてくれた。

 社長を思い出し、苦笑い。

 「いらっしゃいませ、ご主人様たち?我が輩は、本日のステージをまかせられたマジシャンである」

 変なやつ。

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