第2話 こりゃ困った。ソロアフターの風を手に入れないと、あいつらが怒って、たぶん大量退職です。わかる気がする…

 ちがう!

 ネコじゃない!

 今大切なのは、この猛暑を、クーラーも扇風機もない状況でどうやって働き抜けば良いのかということじゃないか。

 「どうすれば…ギャッ!」

 また、あの魔人か。

 今度は、彼のデスクの横に立ちはだかっていた。

 「いつから、こんなところにいたんだ」

 あたりを見渡す彼だが、やっぱり変だ。

 まわりからは、彼に声がかからない。

 どうやら、彼以外の人には魔人の姿が見えないらしい。

 「おい、人間」

 「…何だよ」

 魔人に返す彼のほうの声は、か細い。

 当然だ。

 魔人の姿は他の人に見えなくても、見えない何かに向けて声を出している彼の姿を見られれば、こう言われるだけなんだろうから。

 「マツダ君、どうした?」

 「ぶつぶつ、何言っているんだ?」

 「新しい風と戦う練習かい?」

 「わかるよ」

 「うちの会社、クーラー使わせてくれないものな~」

 「マツダ君も、若いねえ」

 「…暑くて、どうかなっちゃったのかい?」

 ああ、言われそう。

 「人間よ、ソロアフターの風をおこすのだ!」

 魔人は、ニヤリと笑う。

 「この夏に新しい扇風機を手に入れられないと、夏開けに会社にやってくる新入社員どもが、会社に大損害を与えるだろう」

 「?」

 魔人は、それだけを言い、フッと彼の前から消えた。

 「ソロアフターの風?」

 しばし考える、彼。

 「ソロアフターは、会社の名前か?ソロアフター社の新しい扇風機を手に入れないと、この会社も社員も大変なことになるっていう意味か?」

 なるほど。

 わからなくもない。

 ちょっとでも風のこない環境では生きられなくなったわがままクーラー世代の新卒どもが、風のこない会社に嫌気を感じたら、どうなるのか?

 大量退職が起こったり…。

 たしかに、会社も社員も大変なことになるだろう。

 「ふふふ…、人間よ?」

 「何だよ、魔人?」

 「クーラー世代は、怖いのだ」

 「それはもう、たしかに」

 「やつらの武器は、扇風機より SNS。こんな貧乏会社じゃ風がこなくてやっていられないと、SNSで会社の悪口を流されてみろ。どうなることか…」

 「…」

 「ならば、マツダよ?」

 「何だ」

 「お前が、新しい風を手に入れてみろ」

 「…」

 「新しい風をおこしてみろよ」

 「…」

 「まったく、ここは悲しい国だよな。生まれたタイミングが何年かちがうだけで、天国か地獄か…」

 「わかった、わかったよ!俺が、新しい風をおこせるよう、最新型の扇風機を手に入れてみせる!会社を救う!」

 「そうか。お前にしては、珍しく良い愛社精神じゃないか」

 当然だ。

 仕事を、なくしたくはない。

 そもそも、彼の働く会社は貧乏。

 扇風機を大量に作ってくれそうなAIロボットを何体も配備できる予算など、ないし。

 何とかして、新しい風を手に入れてやらねば!

 「人間よ?」

 「…何だよ、魔人?」

 「夏明けにはまた、人材不足が起こるぞ!就職氷河期世代の子たちを裏切ってきたしっぺ返しが、今になって現れる」

 「…わかったよ」

 新しい風を手に入れる冒険が、幕を開ける!

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