夏の冒険は、扇風機から魔人が出てくるファンタジー

冒険者たちのぽかぽか酒場

第1話 暑い夏のピ~ンチ!あぶない扇風機が、やってきた!新しい風を手に入れ、暑い暑い夏を魔人と戦って乗り越えろ!

 扇風機から、魔人が出てきてしまった。

 あわてる男、マツダ。

 扇風機をひっぱたいたのが、いけなかったのだ。

 「風は、どうした!」

 どう考えても、動きの遅くなった扇風機を思いきり引っぱたいたのがまずかった。

 「動け、バシッ!」

 「ぐるん、ぐるん…」

 扇風機の羽根がゆるやかに回転をはじめ、ボワアッと煙が立つ。

 「お呼びでしょうか、ご主人様?」

 昔話などで多くの人が想像する、「ランプの精」などといわれることもある姿のやつが出現。

 「ターバンを巻いて、ちょび髭で、皮膚の青いマッチョマンで…」

 わかりやすい姿だ。

 一目で、だれもが魔人だと思うはず。

 しかも、出てきた本人がこう言っている。

 「われは、風の魔人なり」

 だから、魔人だというのは認めてあげたい。

 が、この魔人、期待外れ度が高すぎる。

 「お前の願いごとを、かなえてあげよう」

 そういう、魔法使いのようなことは一言も言わないのだ。

 「変なやつだ…新手の詐欺?」

 すぐに、逃げなければならなかった。

 「いってきます!」

 朝食などには目もくれず、家の玄関をバンと開け放って、会社に向かう。

 が、油断をしていた。

 「ぎゃっ!」

 会社の玄関の前で、朝見た魔人が待ちかまえていたのだ。

 「ごきげんよう」

 腕組みをする、相変わらずのターバン姿なマッチョ男。

 会社の中に入ると、先に出社していた社員たちが何かに大あわてしていた。

 「扇風機が、おかしくなった」

 「風が、こない」

 「どうやって、この夏を乗り切れば良いんだ!」

 「会社の少ない予算でも買えた、最高の友なのに!」

 聞いて、立ちすくむ彼。

 「新しい風は、もうこないの?扇風機の呪いだ…」

 この猛暑の中、扇風機なしで仕事をしろというのか?

 もちろん、こう言われるところだろう。

 「クーラー(冷房機)を使えば、良いじゃないか」

 が、この会社で働く人たちにはそう言えるはずもない。

 なぜってここは、扇風機を専門に作る会社だから。

 会社のおえらいさんたちは、呪文のようにこう言っている。

 「クーラーなんか、使うな!我々の会社が作る扇風機こそが、本当の風をくれる魔法のアイテムなのだ!」

 「自社製品の扇風機しか、会社で使ってはならん!」

 ということで、この会社では扇風機しか使わせてくれない。

 うわさでは、他社の扇風機を買ってデスクの横に置き、こっそり使っていたある先輩社員は、扇風機警察なるものに逮捕されたという。

 さらに、会社の予算でクーラーを買ってきて課長の怒りを買い、殺された「クーラー世代の新卒」も出たとか、出ないとか。

 社外秘で、こんな歌まで作られた。

 「クーラーがなければ夏は死ぬといっていたクーラー世代が、クーラー買って、ク~ラ~ク~ラ~に死んだクーラー♪」

 社長は、いつも言ったものだ。

 「…ニャン、ニャン!良いですかな、社員たち!うちの会社で作った扇風機しか使ってはならないニャン!」

 彼の働く会社の社長は、ネコなので。

 ファンタジーの世界は、奥が深い。

 新しい風を手に入れる冒険よ、どうなる?

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