第36話 執着と独占欲
穂香の手が、私の制服の上からぎゅっと肩を掴む。
痛みを感じるほどの力。
「……休みの日、どこにも行ってないって言ったよね?」
低く、震える声。
けれど、迷いのない言葉が容赦なく耳に突き刺さる。
「行ってないって、言ってたよね? 私、結菜のこと信じてたのに」
肩を押さえる手に、さらに力がこもる。
けれど、その痛みよりも、目の前の穂香の表情に息が詰まる。
「なのに、なんで……なんで、水族館なんか行ってるの?」
——心臓が強く跳ねた。
「なんで、あの子と?」
穂香の視線が、私のベッドの端に向かう。
そこには、小さなペンギンのぬいぐるみ。
水族館で、詩織と一緒に買ったもの——。
——あ。
その視線を追いかけた瞬間、空気が凍りつく。
「……あれ」
ぎゅっと握りしめる指が、わずかに震えている。
「……あの子とお揃いで買ったの?」
怒りとも、悲しみともつかない、揺らぐ声。
でも、その次の瞬間——
「……結菜、なんで……?」
今まで堪えていたものが、一気に溢れ出すように、まくし立てる。
「なんで嘘ついたの? なんで私以外の子と一緒にいたの? なんであの子とお揃いなんか持ってるの? ねえ、私がいるのに?」
顔が近づく。
逃げ場のない距離。
「私、ずっと我慢してたのに、ずっと結菜のこと考えてたのに……」
「ずっと寂しかったのに、結菜は、あの子と楽しそうにして……」
「結菜は、私だけのものじゃないの?」
荒い息。震える声。
穂香の指が、私の制服の襟元を掴む。
そして——唇が、すぐ目の前まで迫った。
「やっぱり……結菜は、私を捨てて……あの子に乗り換えるつもりだったんだ……」
穂香の声が、低く、苦しげに滲む。
それは確信でも、疑問でもなく——ただ、感情のままに零れた言葉。
「違う、そんなつもり——」
言いかけた瞬間だった。
「無理、無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理……!!」
穂香の声が、部屋の空気を一瞬で塗りつぶした。
肩を掴む手が震え、制服の生地がぎゅっと握りしめられる。
「無理だよ、結菜が私を捨てるなんて、無理……! そんなの絶対に許せない……!」
声は震えているのに、目は何かにすがるように、私だけを捉えて離さない。
言葉よりも、その視線が恐ろしかった。
「あの子なんかに取られたくない、結菜は私のものなの、私だけの……っ!」
次の瞬間——息が、止まった。
——口が、塞がれていた。
強く、激しく、深く。
まるで私の存在そのものを確かめるかのように、穂香の唇が押しつけられる。
呼吸の余裕なんて、ない。
喉の奥まで支配するような、狂気じみたキス。
ただ奪うだけのものじゃない。
これは、すべてを私に刻み込むためのもの——。
「……結菜は、私の……っ、私だけの……絶対に……!」
唇が離れた直後、荒い息とともに、穂香が低く呟く。
その手が、再び私を捕まえた。
もう、逃がさないと言わんばかりに——。
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