第12話 少しずつ side.詩織
side.詩織
(……ふふ)
私、鷹宮詩織は、心の中で思わずニヤけてしまっていた。
七瀬さんが弱り切った状態なら、つけ入る隙はあると思っていたけれど、思った以上に上手くいったかもしれない。
七瀬さんは、きっと今、私への警戒を少しずつ解いてくれている。
こういう時間を重ねることが、彼女との仲をさらに深める一番の近道になる。
(そうでしょ?)
私は心の中で問いかける。
でも、彼女は何も応えない。ただ静かに窓の外を見つめているだけだった。
カフェで注文したデザートが運ばれてくると、七瀬さんはわずかに表情を緩ませた。そんな様子に私も自然と笑みが浮かぶ。
(可愛いなぁ……)
そのわずかな表情の変化だけでも、私は彼女に惹かれてしまう。
──でも、まだまだ足りない。
私にもっと気を許してほしいし、心も開いてほしい。
私は七瀬さんのことをずっと見ていた。
そして見れば見るほど、好きになっていった。
いつも素っ気なくて、不愛想なのに、白石さんから連絡が来たり、白石さんが会いに来たりするだけで、突然表情をキラキラとさせて喜んだりするところや、白石さんがいないところでは寂しそうな表情をしているところ。
そんな彼女を見ていると、いつしか、彼女を手に入れたいという気持ちが強くなっていた。
だからこそ、白石さんが束縛をやめてほしそうな発言をした時はチャンスだと思った。
ここで七瀬さんに揺さぶりをかければ、きっと白石さんと距離を取ってくれると。
そして、実際にその通りになった。
白石さんとの距離が離れた今こそ、七瀬さんを私のものにするチャンスだ。
(白石さん、私はあなたより七瀬さんのことを幸せにしてあげられる)
私は心の中で呟く。
きっと今も七瀬さんの心を支配しているのは、白石さんなのだろう。
でも私は七瀬さんの心を塗り替える。
少しずつ、少しずつ時間をかけてじっくりと。
「どう?」
私は七瀬さんの前に置かれたベリータルトを指さしながら、微笑んだ。
彼女はフォークを手に取り、ゆっくりと一口食べる。
「……おいしい」
その小さな呟きに、私は思わず微笑んだ。
「でしょ? ここのタルト、甘さと酸味のバランスが絶妙なんだよね」
七瀬さんは、もう一口、また一口とタルトを口に運ぶ。
その姿が可愛くて、私はつい見惚れてしまう。
(もっと、私に慣れてほしい。もっと、私を見てほしい)
「ね、七瀬さん」
「……なに?」
「今度、一緒にどこか行かない?」
彼女の手が止まる。
「……どこかって?」
「そうだな……例えば、水族館とか。そういう場所、好き?」
七瀬さんは少し考え込んだ。
「……あんまり行ったことないかも」
「じゃあ、初めてを私と一緒に、っていうのはどう?」
私はいたずらっぽく微笑んだ。
七瀬さんの心を揺さぶるには、こうして少しずつ、彼女の世界に入り込んでいくのがいい。
「……考えておく」
彼女の返事はまだ曖昧だけど、私はそれでも十分だった。
(焦らない。じっくりと、時間をかけて……)
私はカップに口をつけながら、密かにそう決意した。
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