第11話 変化 side.穂香
side.穂香
私、白石穂香は放課後、一人、当てもなく歩いていた。
(結菜……)
今朝、私は結菜から距離を取ることを告げられた。
多分、『もう少しだけ、私に自由をちょうだい?』と言った、あの言葉が結菜にあんな決断をさせたんだと思う。
でも、これで良かったはずだ。
結菜は明らかに私に依存していた。
あのままだときっと、結菜は私以外を見られなくなっていた。
それに結菜の束縛に私自身少し辛さを感じていたのも、事実だった。
だから……これでいいはずなのに、私はどうしてか心の奥にぽっかりと穴が空いたような気がしていた。
「はぁ……」
思わずため息が漏れる。
そうして夕焼けに染まる街を眺めながら、ゆっくりと歩いていると、あるカフェの前を通りかかる。
ここは、以前に結菜と一緒に訪れたカフェだ。
「結菜……」
無意識の呟きが漏れた。
今は、隣にいない彼女の姿を探すように、私はカフェへと目を向ける。
(……え?)
瞬間、私は思わず足を止めた。
窓際の席に座る結菜の姿が見えた。
だけど、彼女は一人ではなかった。
向かいには、見知らぬ女の子が座っている。
(……誰?)
二人は何か話しているようだった。
結菜の表情は、硬いけれど、どこか落ち着いているように見える。
気づけば、私はカフェの前で立ち尽くしていた。
中の会話は聞こえない。
でも、結菜の視線は彼女の方へと向けられていて、時折、僅かにだが微笑むような仕草を見せている。
窓越しに見えるのは、私の知らない結菜だった。
ここは私が結菜と一緒に来たカフェなのに。
まるで、結菜との思い出が、新しい何かに塗り替えられていくような気がして──胸の奥がざわついた。
(……結菜、こんな風に誰かと話せるんだ)
知らなかった。
結菜が、私の知らない誰かと向き合い、話している。
今までの結菜なら、私以外の人とこんな風に過ごすことなんて考えられなかったのに。
(結菜は……変わろうとしてるんだ)
結菜が変わろうとしているのは良いことで、自分が望んだことなのに──
胸の奥が、ズキリと痛んだ。
私はぎゅっと拳を握る。
(どうして、こんな気持ちになるんだろう)
視線をカフェの窓に向けたまま、胸の内の違和感を振り払うように小さく息を吐いた。
結菜が新しい何かを見つけるのは良いことだ。
彼女のために、それが一番いい。
……なのに、私はこんなにも寂しさを感じてしまう。
このまま見ていたら、もっと嫌な感情が生まれてしまいそうな気がした。
だから。
私はそっと踵を返し、カフェの前から立ち去った。
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