いつまでもあなたの憧れでありたい

五色ひわ

お題は『あこがれ』

 会場が歓声に包まれ、スポットライトが舞台を明るく照らす。私は舞台の端で左半分だけライトを浴びながら笑顔を振りまいた。


 学園一の美少女と呼ばれ、後輩に背中を押されて飛び込んだアイドルの世界。


 外から見る華やかな印象とは違い、ダンスや歌のレッスンは過酷だった。周りを蹴落として這い上がる者もいたし、甘い言葉で釣って利益を強要する者もいる。自分を守ることで必死だった。


 憧れの舞台が仕事場に変わったのはいつからだろう。


 キラキラと輝く新人が横で嬉しそうに踊っている。それを見ると、自分がひどく汚れてしまったように感じた。


 私は踊りながら、舞台の前方に移動する。唯一のソロパートを歌うためだ。一言に全てを込めて歌うと、デビュー前からのファンの声援が届く。


 制服姿で駆けつけてくれていた後輩は、いつの間にか私服姿に変わり、今日はスーツを着ている。五年のアイドル生活は、あっという間だったが、高校生が大学を出て就職するほどの月日が流れていることに気づかされた。


「お疲れさまでした」


 私は片づけを終えてスタッフに挨拶すると、裏口から劇場を出る。


 主力メンバーは次の仕事に行ったので、出待ちのファンも疎らだ。顔見知りの子たちに声をかけてから駅に向かうと、途中で後輩が待っていた。


【話したいことがあります】


 スマートフォンを通して伝えられた言葉に私は頷いて了承する。距離を取ったまま乗り込んだ電車が地元に着くと、彼の誘導で近くの公園に入った。


 子どもたちが帰った日暮れ後の公園に人影はない。緊張した様子の後輩を黙って見つめていると、持っていた紙袋から花束を取り出し、捧げるように渡してきた。


「僕だけのアイドルになってください!」


 彼の言葉が静かな公園に響く。結婚してアイドルをやめてほしい。そういうことだろう。


 彼は私にとって特別な人だ。私以上にアイドルである私を知っている。それでも、私の夢を私より先に諦めてほしくなかった。


「ごめんなさい」


 気がついたら、勝手に断りの言葉が出ていた。思った以上に私はアイドルの仕事が好きらしい。


 ……


 告白を断ってから二年の月日が流れたが、私は今もしぶとくアイドルを続けている。


 劇場で彼の姿を見ることはなくなった。それでも、今の私は高校時代の彼が憧れた以上の私になれていると思う。


 今の彼が見たら、なんと言うだろう?


 私は舞台の中央で、アイドルらしい笑顔を浮かべた。



 終

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いつまでもあなたの憧れでありたい 五色ひわ @goshikihiwa

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