第37話 帝室会議2
「傷物令嬢を嫁に貰ってやる」と言われたアヴローラは、気持ち悪さに吐き気を我慢するので精一杯。貴族家に生まれた以上、政略結婚は義務だとわかっているがこれはあり得ない。すると、扇で口元を隠しながらも、不愉快極まりない表情のフェオドーラ様と、怒りを顔に表したリャービン大公殿下が発言した。
「アヴローラが傷物? あの時はドレスが少し見えただけ。全貴族はアヴローラの裸体など全く見ていないのに、なんたる侮辱。傷物と呼ばれる筋合いはありません。あなたとの結婚は謝罪ではなく、罰ゲームよ」
「自分の父親より歳上の、女にだらしない男との結婚は、地獄に落とされるのと同じだ」
「余は皇帝であるぞ! いくら叔母上叔父上でも不敬だ。大体、この場に叔母上と叔父上がいるのもおかしいではないか!」
「何がおかしいのです? あなたの頭かしら?」
「この部屋は何の用途に使用するか、それくらいは知っておろうな?」
「帝室会議の間だ、それがなんなのだ!」
「帝室会議の間は、帝位継承者だけが、入室を許される。私は兄である亡き先帝陛下の意志を継ぐ者、ここに現皇帝の退位を要求する」
「何を言うかと思えば退位の要求? なるほど、叔父上は長年寝たきりで頭がおかしくなられたようだ。即、退室せよ!」
「長年寝たきりだった私の様子をたった一度だけ見に来て、お前が何を言ったか証拠を出す」
リャービン大公殿下が、金属製の箱を卓上に置き、スクリーンが展開される。つまり、大公殿下は帝室魔術師と同等か、それ以上の魔術師だ。場所はリャービン大公の寝室。案内した使用人を下がらせ、小声で
「わざわざ見舞いに来てやったのに、眠っているのか。余より歳下のくせに、叔父と呼ぶのも忌々しい。父の先帝陛下に似た、あの息子も目障りだから死んだ。死亡解剖で毒が発見されると面倒だ。使わずともすぐに死ぬだろう。あの世で息子共々、余が皇帝だと悔しがるがいい」
皇帝の顔が青くなったと思えば真っ赤になり、「こんなものなど捏造だ!」と叫ぶ。あの夜会で自分の娘が言った台詞と同じなのはさすが親子。皇帝の弟、ヴィノグラードフ大公殿下が、各自にレポートを配り、説明開始。
「リャービン大公子レオニードの死は、車の事故として陛下が勅命で調査を打ち切られた。だが、私はそれまでに集められたものから、調査した結果がそのレポートです」
レオニード皇子殿下は、車が暴発して亡くなったと発表されていた。しかし運転手は怪我だけ。その運転手は事故後、辞職してブリトンへ行き、ある宝石店でダイヤモンドを売ろうとした。しかしローディナ産の宝石は、研磨して
ルースが売れなかったと文句を言いに、その運転手がローディナに戻った時点でヴィノグラードフ大公が捕縛。取り調べの結果、レオニード皇子殿下の死亡事故は、殺人と判明、その男は処刑。ブリトンでルースを売ろうとした理由を調べ、主犯と共犯が浮かび上がり、皇帝の女性関係がリンクしていた。
「母である亡き皇太后が、母の祖国ブリトンで売り払えばいいと兄上に告げた。兄上の数々の愛人も皇太后が斡旋。愛人のひとりは、私と離婚したディアーナ。皇太后が亡くなった後はディアーナが愛人を斡旋していた」
「ルースなど知らぬ! 母上が、皇妃も愛人がいるなら俺も愛人を持てばいいと、母上もディアーナも喜んで——」
「50才過ぎた男が、母上母上か」
「情けない、恥ずかしくないのかしら」
「母上が、皇帝は存在するだけで価値がある、国政などマクシミリアーンにさせれはよい、と仰ったんだ。母上を侮辱するな!」
「つまり自分は皇太后の傀儡。お飾りの皇帝で、国政はマクシミリアーンとザラタローズ公爵家のピョートルに丸投げしていたと認める発言だな」
「ち、違う」
「これらが全て繋がったのは、ディアーナを含め兄上の愛人や元皇妃、元皇太女や補佐官たちが、同じ
「マクシミリアーン、ディアーナの行方は?」
「こちらが手配した見目よい男を愛人にして、旅行しようとしたところを確保。自白剤を使用し、全て話しました。アヴローラ嬢の怪我の原因であるガリア大使と甥が『祈りの宮』に隠れていたのも、ディアーナが秘密の通路を伝えていました。ブリトンにも通告し、処分は任せるとのことで廃妃にしました。自白剤の副作用で、表に出せる状態ではありませんが」
「ありがとう、続けて」
アヴローラもおかしいと思っていたのだ。帝室の限られた人間しか入れない『祈りの宮』を出たところに、あの時ガリア大使と甥がいたのか。本来なら皇弟宮から出発すればいいのに、ディアーナが『祈りの宮』に誘い、限られた人間しか知らないから大丈夫と言ったにもかかわらず、あの二人がいた。ディアーナはアヴローラの何が気に入らなかったのか、真相は闇の中になった。
「兄上が執務を放棄して数々の女に溺れ、元皇妃や元皇太女を放置した結果、『花の園』にスパイが大量に入り、麻薬まで多くの貴族が手を出した。それらは兄上の愛人たちも同じく、スパイで他国に情報を流していた。執務を放棄した者から情報など得られませんが、帝室の
「母上が皇帝の離婚は他国に馬鹿にされるから、放置しろと」
「また、母上のせいですか」
「では、この魔術勅命書を廃棄したのも、皇太后が言ったのか?」
「なっ、何故それが叔父上の手に!」
「革命前から大和帝国へ留学していた私に、兄上の侍従が足を運んで持って来た物だ。これは、お前が大戦後に帰国して破棄させた物。こちらは私が侍従から受け取った物。勝手に破棄した場合、私の元に届くよう魔術が施されている。先帝陛下の勅命書を廃棄した罪の重さは、傀儡でもわかるであろう?」
「それは父上の誤りだ! 何故ザラタローズ公爵家に領地と王位を返還せねばならぬ!」
「勅命書を読んだ上で、それが答えか。兄の先帝陛下は、ザラタローズ公爵家の先代当主、アデライーダ様の数々の進言に感謝していた。特に魔石の活用は全国民が安価に使用、生活水準が向上。直轄地にして帝室が魔石を独占。各会社や大和帝国に販売して、帝室は莫大な利益を得ている。それら全てはアデライーダ様の進言によるもの。それにより領地と王位を返還することの、何が誤りか。お前は放棄した国政を任せようとザラタローズ公爵家のピョートルをこき使うために、この勅命書を破棄した。マクシミリアーンの調査結果と併せ、挙手で決める。ニコライの『廃位』に反対の者は挙手を」
皇帝、ただひとりだけが挙手をした。
「帝位継承者会議の結果、ニコライは廃位決定」
『幽閉場所は?』
「女神様!」「女神様が顕現なされた」
卓上に浮かぶ女神様の姿を見て、アヴローラやリャービン大公殿下が思わず言葉に出す。
「叔父上、叔母上。幽閉場所は『最北の塔』でよろしいでしょうか?」
「よい」「そこが相応しいでしょう」
「女神様、こちらが『最北の塔』で、幽閉者はこれらの者たち。生活物資はこちらから魔術で転移させますが、あちらからは転移不可です」
『我の愛しい姫を嫁に貰ってやるなど、許されぬ暴言。転移は任せよ』
そう仰られた女神様と皇帝の姿がふっと消えた。
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