第114話 レベル上げ厨、《剣気》の性能を検証する
協会ロビーでヒナタさんと胸襟を開いて語り合い、互いに分かり合えた後。
更衣室で着替えて再建されたダンジョンゲート前で再集合した俺たちは、ダンジョンに入り、1層の転移陣から7層の転移陣へと転移した。
そうして向かうのは、いつものように7層モンスルームだ。
ただし、本日はまだヒナタさんの配信をスタートしていない。
いつも同じような周回の様子を配信しても視聴者は退屈だろうし、それに配信でお披露目する前に練習したいスキルもある。そんなわけで、今回はヒナタさんと相談して、配信開始時間をいつもより遅らせることにしたのだった。
一方で、モンスルームに辿り着いた俺たちは、まずはいつものように周回を開始する。
ヒナタさんにブレスを掛けてもらい、それからモンスルームの扉を開けて中へ飛び込む。すぐにリュックを壁際に置いて、各種スキルを起動したら戦闘開始だ。
あ、ちなみに。
現在のヒナタさんのブレスによる強化値は、「+29」となっている。
ブレスの強化値は本来「10」だが、杖と法衣で1.44倍になり、そこからさらに《聖女》スキルの効果で2.88倍となる。だから端数が四捨五入されて、ステータスの数値上では「+29」になっているのだ。
《不撓不屈》と合わせれば、HPとMPを除く全ての能力値が「+53」されることになる。
だから前回、「俊足の腕輪」と「技巧の腕輪」を使わなくても良くなったんですね。
とにもかくにも、《求道者》《苦行》を使ったモンスルームの周回も、もはや慣れたものだ。
周回を始めたばかりでテンションは上がりきってはいないが、それでも各種状態異常の影響で動きが鈍ることはない。
ゴブリン軍団が現れるなり、巨大飛翔刃を連発して全てを経験値に変えていく。
そうして周回すること3時間。本日45周目の周回を終えた時に、それは来た。
「――んギボヂィイ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ッッ!!!!!」
やはりッ!!
俺は激しくイナバウアーを決めながら確信する。
レベル30台の時より、レベル40台でのレベルアップの方が気持ち良い!!
レベルアップで付与されるステータスポイントが、40レベルからは25ポイントに増えているのだ。
レベルアップ毎に与えられるステータスポイントの多寡によって、感じる快楽の大きさは異なる。これまでも薄々そうだと思っていたが、これはもう確定で良いだろう。
つまり、レベルアップすればするほど、より気持ち良くなれるってことだ!!
レベルアップする、気持ち良くなる。レベルアップする、もっと気持ち良くなる。レベルアップする、もっともっと気持ち良くなる!! 気持ち良くなってレベルアップする!!
おいおい、永久機関が完成しちまったなァァ!!
俺はびくんっびくんっと全身を快楽に震わせながら歓喜した。
それからしばらく、正気に戻ると、もはや俺の絶叫にも慣れた様子のヒナタさんが近づいてきた。
「レベルアップおめでとう、武男くん」
「てへへ、いやー、ありがとうございます。これもヒナタさんのお陰ですよ」
しかし……気持ち良くなった後に綺麗なお姉さんに「おめでとう」って祝われるのは、実に妙な気分だ。少しだけ気恥ずかしい。
「えっと、それじゃあ……さっそくポイント振っちゃいますね」
「うん、ゆっくりで良いからね」
そんなわけで俺はステータスポイントとスキルポイントを振る。
ステータスは悩む必要もなかったが、スキルポイントは悩んだ。いや、悩んだというか苦労した。勝手に指が《覚者》を押しそうになるんだもん。
しかし、目先の経験値より後の大きな経験値こそが大事だ。
俺は自分にそう言い聞かせ、断腸の思いでポイントを振った。
結果、ステータスはこうなった。
――――――――――――――――
【名前】鮫島 武男
【レベル】『40』
次のレベルまで経験値『102012022』
《HP》83/250(10up!)
《MP》0/82(5up!)
《筋力》130(5up!)
《頑丈》120(5up!)
《知力》6
《精神》76(5up!)
《敏捷》125(5up!)
《器用》130(5up!)
【STP】『0』
【SP】『0』
【スキル】《刀剣類装備時ダメージ上昇Lv.Max》《狂化Lv.1》《ゴブリンジェノサイダーLv.Max》《血の復讐Lv.1》《剣気Lv.2》《挑発Lv.1》《■■■■■■■Lv.1》《生活魔法Lv.Max》《魔法剣Lv.1》《危険察知Lv.1》《剛剣Lv.3》《求道者Lv.Max》《不撓不屈Lv.1》《苦行Lv.Max》《覚者Lv.1》《安心立命》
【称号】《戦闘狂》《ゴブリンジェノサイダー》《■■■■■》《剣豪》《覚者》
――――――――――――――――
んで、スキルポイントを振った《剣気》はこうなった。
――――――――――――――――
【スキル】
《剣気Lv.2》――刀剣に剣気を纏わせダメージ上昇1.4倍。または剣気を斬撃として飛ばすことが可能だが、ダメージは1.0倍。10秒毎にHP2を消費。斬撃を飛ばすとさらにHP1消費。
――――――――――――――――
《剣気》を維持するHPが2倍に増えてしまったが、その代わりに直接攻撃ならダメージ倍率が1.4倍になった。一方、飛翔刃の消費HPやダメージ倍率は変化なし――なのだが、ミトさんの話が本当なら、実際にはHPを20まで込めて斬撃を放てるようになっているはずだ。
これは称号とかに多い印象なのだが、称号やスキルの説明欄には全ての情報が記載されているわけではないようだな。
実際には書かれていない効果というのも、探せば結構あるのかもしれない。
まあ、何はともあれ、まずはレベルアップした《剣気》の使い心地や性能を検証していこうと思う。
8層以降へ進むにあたって、本当に俺が思った通りのことができるのか、確かめてみなければなるまい。
「ヒナタさん、お待たせしました。それで……これから《剣気》の使い方とか、色々試してみたいんですけど、良いですか?」
「うん、もちろんだよ。武男くんが納得するまで試して良いからね」
ヒナタさんには事前にスケジュールの相談をしていたとはいえ、もう一度確認を取る。
すると問題なく許可が出たので、俺は7層モンスルームで色々と試してみることにした。
スキルレベルが上がって《剣気》の使い心地がどう変化したのか。そして実際にHPを20込めることができるようになっているのかどうか。
《剣気》の性能検証を優先して、《求道者》《苦行》をほとんど使わずに戦うこと――10周。
色々なことを確認できた。
ミトさんに教えてもらったこと以外は、どれも些細な変化だった。しかし――、
「わ、何か……すごいね、武男くん……!!」
「はい。これは……ちょっと自分でも予想外でした」
言葉にすれば些細な変化でも、戦闘面では大きな違いとして現れる物事は多い。道具や装備のちょっとした使い心地の変化が、生死を分けることもある。
今回、《剣気》のレベルが上がったことで変化したのは、良い意味で、そういった使い心地の変化だった。それにちょっとした発見というか、新たな機能の追加もあった。
その結果――、
「ゴブリン49匹……ヒナタさん、戦闘終了まで何秒掛かりました?」
「えっと……15秒くらいかな。武男くん、HPの消費はどう?」
「129ですね」
最後の一回、《求道者》と《苦行》も発動して戦ってみた。
しかし、その状態でも巨大飛翔刃を連打すれば、10秒以内で全てのゴブリンを殲滅することができる。つまり、戦闘時間はむしろ長引いているのだが、実は今回、巨大飛翔刃と《剛剣》のコンボを使わずに戦っている。
だからHPの消費はいつもの周回方法に比べても、減っているのだ。いつもなら途中でヒナタさんのヒールを挟まないとHPが全損しちゃうからね。
にも関わらず、15秒で戦闘を終えることができた。
あれを接近戦と呼んで良いのかは疑問だが……とにかく、途中から接近戦を行っても、この結果である。
言うまでもないが、ゴブリンからの攻撃は一撃も喰らっていない。
「何だか、いきなり強くなったような気がするよ……」
「ええ、俺もそう思います」
《剣気》のスキルレベルを1つ上げただけなのだが、強さが一段階上がったような気さえしていた。
「皆こんなに、一気に強くなるのかな……?」
「どうでしょう? ミトさんは何も言っていなかったし、そういう話も聞いたことはないですが……」
《剣気》のスキルレベルを1つ上げただけで、ここまで変化するなら攻略Wikiとかに情報が載っていてもおかしくないが、そんな記述はないし、ZXとかダンチューブとかでも、そういった話を聞いたことはなかった。
スキルの性能の変化としては些細なものなので、ある程度レベルが高くないと恩恵が少ないのか……あるいは《剣豪》の称号効果が、何かあるのか。もしかしたら、《剣気》の使い方を色々工夫してみたのが良かったのか。
でも、工夫と言ったって、それほど大したことはしていないし、誰でも思いつきそうなものだが……ミトさんの話を思い返すに、もしかして「これ」もそれなりの筋力値や器用値が要求される――というのもありそうだ。
どっちしても、これは……スキルポイントに余裕があれば、また《剣気》に振っても良いかもしれない。
俺でさえそう思うほどの変化だった。
まあ、とにかく、これで検証は終了だな。
俺は8層以降に進める力が十分についたと判断し、頷いた。
「ヒナタさん、昼休憩を取ったら、いよいよ8層に進みましょうか」
「うん、分かった。じゃあ、休憩が終わったら配信開始しちゃうね」
「了解です!」
そんなわけで、俺たちはモンスルームの中で昼食と休憩を取り――1時間後、ヒナタさんのチャンネルで配信を開始した。
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