第62話 レベル上げ厨、激怒する


「――クソッ! クソクソクソクソクソッ!! クソォオオオオオオオオオッッ!!!!!」


 俺は叫んだ。


 このどうしようもない現実に。


 ――勝てない。


 ゴブリンナイトを遥かに上回る防御性能を持ち、攻撃は一撃でもまともに食らえば死ぬ威力。攻撃を躱すことさえ《闘気》の発動なしには不可能で、それは聖騎士も同じだが、最悪なことに向こうはHPの回復手段を持っている。


 これがもしコマンド型バトルシステムのRPGなら、すでに詰んだ状況だろう。何度リトライしたところで、勝てる確率は0パーセントという戦い。


 そしてこれは、ゲームのような負けイベントではない。


 敗北を前提にしたイベントではなく、負ければ死ぬという、極々当たり前の現実だ。


 俺は先の一撃で開いた距離を詰められる前に、モンスタールームの中を全力で駆け巡る。聖騎士から少しでも遠くへ逃げるように。


《闘気》が発動から10秒を経過し、スキル継続により、さらに5のHPが消費される。《剛剣》でHP10を消費しているから、残りHPは50だ。すなわち、このまま逃げ続けていても、俺の余命はおよそ100秒。


 死ぬわけにはいかない。


 こんなところで死んでたまるか!!


 俺はッ!! まだッ!! この現代ダンジョンに出現したレベルというシステムの、カンストレベルに達していないッ!!


 レベルをカンストさせるまで、死んでも死にきれるわけがないだろッ!!


 ――だから。


「ぬぅぉおおおおおおおおッ!!?」


 聖騎士は俺にHPの回復手段がないことを悟ったのか、無理に追うことはせず、矢継ぎ早に《剣気》で飛翔刃を放ってくる。


 一瞬前まで俺がいた場所を高速で通り過ぎていった幾本もの斬撃が、部屋の壁面に衝突しては、間断なく、まるで絨毯爆撃のような衝撃音を轟かせた。


 俺はそれらを走り回り、転がり、無様に攻撃を回避する。何とか、ギリギリで回避していく。


 攻撃と攻撃の隙間、ほんのわずかな猶予に、俺は虚空へ手を伸ばした。


 手を伸ばし、聖騎士には見えない何かをタップするごとに、俺の動きはキレを増し、回避にもほんの少しずつ、余裕が生まれ始める。


 何をしているのかと言えば、簡単なことだ。


 ステータスを操作して、スキルポイントを振っているだけ。


 ただし、このポイントは今度こそ《求道者》に振るために、俺が溜めていた大切なポイントだ。


 それを一部とはいえ、当面振るつもりのなかったスキルに使のだ。



 ――俺は怒ったぞ。



 もはや覚悟は完全に固まっている。というより、それしか方法がないのだ。


 そして――全てのポイントを使用してもなお、俺が生き延びれるかどうかは賭けだ。ここまでしてもなお、聖騎士に勝てるという確信はない。


 それでも、《闘気》スキルがさらに5のHPを消費し、残りHPが45となった頃、俺は全ての操作を終えた。


 ポイントを振ったスキルは以下の通り。


――――――――――――――――

【スキル】

《ゴブリンジェノサイダーLv.1→Lv.Max》

 ゴブリン種に与えるダメージが4.0倍。ゴブリン種との戦闘時、HPとMPを除く全能力値が10割上昇。および、ゴブリン種から獲得する経験値2.0倍。


《剛剣Lv.1→Lv.3》

 HP30を消費し、次の刀剣での攻撃時、敵に与えるダメージ12.0倍。

――――――――――――――――


 残っていた6ポイント、全て使った。


《剛剣》を優先して上げなかったのは、せめてもの抵抗もあるが、最大レベルに上げれば発動するためのHPが足りなくなるからだ。


 俺は全てのスキルポイントを割り振ると、回避から一転、聖騎士に向かって疾走を開始する。


「これでテメェが死ななかったらッ!! テメェの勝ちだこんちくしょうッ!!」


 叫びながらスキルを起動する。


 すでに発動している《ゴブリンジェノサイダー》と《闘気》《狂化》に加え、今度は《魔法剣》ではなく《剣気》を発動。


 理由はこちらの方が攻撃力が高いからだ。


 聖騎士は治癒魔法を使える。そして魔法を使えるモンスターは、《知性》や《精神》が高い傾向にある。


 実際、先ほど攻撃してみた感じでは、魔法属性ダメージに対して脆弱な感じはしなかった。


 ならば物理防御と魔法防御は、ほぼ同等と決めつけても構わないだろう。


 どちらにしろ、弱点と言えるほど大きな差異がなければ、《魔法剣》よりも《剣気》を使う方が良いのだから。


 なぜならば《魔法剣》のダメージ計算では、《筋力》と《知性》を足して2で割った数値が適用されるからだ。《知性》をろくに上げていない俺の場合、弱点属性を突けないのなら、それは攻撃力が低下する要因でしかない。


 だから《剣気》を使う。


 それに加えて《剛剣Lv.3》を起動すれば、全ての準備は整った。


《剣気》と《剛剣》でHPは31消費され、残りHPは14にまで低下する。この時点で、《血の復讐》の第二段階の効果が発動した。


 すなわち、俺の最終的なステータスはこうなった。


――――――――――――――――

《筋力》272(+192)

《頑丈》240(+165)

《知力》12(+6)

《精神》79(+43)

《敏捷》240(+165)

《器用》165(+90)

――――――――――――――――


《剣気》による薄青いオーラの光が、一際強く輝く。


 先ほどよりも40近く上昇した敏捷値により、ほんの少しだが余裕を持った動きで、聖騎士の攻撃を回避しつつ接近していく。


 だが。


「――――」


 あれだけ矢継ぎ早に飛翔刃を放っていた聖騎士は、攻撃が俺に当たらないと判断するや否や、盾を前面に構えて腰をわずかに落とした。


 その盾がスキルによって光り輝く。


 俺の攻撃を受け切るつもりなのだろう。


 聖騎士が防御に徹すれば、今の俺ではその防御をすり抜けて、本体に攻撃を加えることはできない。それを可能にする能力値はなく、技量でも向こうが上だからだ。


 要するに、この一撃は待ち構えた聖騎士によって、盾で防御される。


 ――良いだろう。


 上等だ。


 最初からそうなると分かっていた。


 その上で。


「ぶち抜いてやらぁあああああああああああああッッ!!!!!」


 疾走。接近。間合いに踏み込む。


 至近。構えられた盾の前。聖騎士の目の前で。


「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!」


 俺は疾走の勢いに全体重を乗せ、無意識のリミッターを外すように大声で叫びながら、全身全霊、渾身の力で剣を叩きつけた。


 筋力値「272」を十全に発揮した一撃から繰り出される、2×4×1.2×12倍の斬撃。


 すなわち――――ダメージ倍率にして115.2倍の一撃だ。



 轟音。



 落雷の至近とも、爆発の中心部とも似つかない、ただただ凄まじい轟音が鳴り響いた。


 その音を形容する言葉を俺は知らない。生まれてこの方、聞いたこともないほどの衝突音。


 耳がバカになるほどの轟音と同時、盾を構えていた聖騎士の体が、まるで弾丸のように吹き飛んだ。


 一瞬でモンスタールームの壁面に衝突。壁全体に蜂の巣のようなヒビを刻みながら、壁の中に半分ほども体をめり込ませた。


 その左手にはすでに、盾は握られていない。


 剣を振り抜いた瞬間、盾は砕かれ、白銀色の全身鎧に、袈裟懸けの斬線が刻み込まれていた。


 ただ……、


「――――っ」


 腕を振り抜いた俺の手の中、握られた柄より先で、鋼鉄のロングソードの剣身も粉々に砕け散っていた。


 おまけに両腕も酷く痛む。


《筋力》と《頑丈》こそ数値的に大きな違いはなかったが、《器用》が低く、その上で全力を出した代償。


 表示したままだったステータスを見る。


《HP》6/155


 攻撃しただけなのに、ダメージを負っていた。


 武器もなく、HPも残り少ない。


 これで倒せていなかったら――――俺の死が確定する。


 だから緊張と焦燥の中、壁にめり込んだ聖騎士を油断なく見つめながら、俺は繰り返し祈った。


 動くな。もう動くな。動くな動くな動くな!!


 果たして――俺と聖騎士、勝利はどちらに微笑むのか……その答えは、女性の声でもたらされた。

























 ――レベルが上がりました。


「んギボヂィイ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ッッ!!!!!」



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