第4話  ◇……月日は流れ



「私とは他人になるけれど息子はこれからも一生あなたの子供なんだから、

私のことは気にしないで息子に会いにきてやってネ!

 これだけはどうしてもお願いしておきたくて」



 

「分かってる。

 そう言ってくれる寛大な君に感謝もしてる。

 でもどうだろう、そういうことならよけいに息子への養育費を

一括で受け取ってくれないだろうか。高校までの2000万円。


 大学生になった時は、また息子のために学費や生活費を出すつもりでいるし。

 ……じゃないと、息子に会いずらい」



「そんなの気にせず会いにきてやってくれればいいのよ。

 私は自分と息子の生活くらいひとりでやっていける収入が

あるから大丈夫。

 英と新しく奥さんになる人のために使って……」


 そんな遣り取りを交わして、私は英と赤の他人になった。


 私と離婚後、ほどなくして英は景子と再婚をした。



 結婚した途端、少し前まであんなに皆の前であからさまな

Love A Fair繰り広げていたふたりなのに、水滴を2~3滴、熱い鉄板の上に

振りかけるとジュワっと雲散霧消するかのごとく、その行為はなくなった。


-

 わざわざ職場で見せびらかすなんてことを夫婦でやったら

顰蹙通り越してアホじゃないって、先輩の誰かが笑いぐさにしてたけれど、

私もその場で他の同僚たちと一緒になって『アホォ~』って、笑った。



 周りの人たちは敢えてふたりのことに触れないようにするでもなく、

彼らのことを燃え上がった熱い奴ら認定で、時々笑い種わらいぐさにして私には自然体で接してくれた。



 みんなのやさしさで、腫れ物に触るような扱いをされなかった私は、その後

彼ら(英と景子)と時々接することもあったけれど、挨拶を交わすくらいの関係で、

そのまま今まで通りの職場ライフを過ごした。



 まっ、寂しさが少しもないと言えば嘘になるけれど、私には仕事があって

愛すべき息子がいる。


 そして両親や兄弟もいる。

 友達も。


 そして何より職場での同僚先輩後輩に恵まれていた。


 私は以前にも増して仕事に打ち込み、充実した日々を送っている。

 実際、多忙な毎日でくよくよしている暇もなかった。



……月日は流れ



 そんな日々の中でひとつだけ、憂鬱なことがあった。

 離婚した時息子の真樹夫まきおはまだ3才だった。



 私が提案した通り、定期的に息子に会いにきてくれていたら、

きっと息子は父親である英の顔を忘れることもなかったと思う。


 だけど、信じられないことに──

英はその後、一度も真樹夫に会いにきていない。


 この間7年の間に、何度か亜矢子は英にそれとなく息子に

会いにきてやってほしいと頼んでもいた。


 それなのに――――


英は新しい妻、景子との生活が自分の全てになってしまい、自分の

分身である息子のことさえ、気にかけてこなかったのである。



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