第9話 遭遇と同心
楚国を目指したものの、余祭は
思案の中で旅を続け、
すると――。
突如、
余祭は
若者は
刹那、月光に切っ先を煌めかせ見せしめたのは、一騎当千の余祭をも
辺りには瞬く間に
不意に、余祭はその猛虎のような若者と
渓川の急潭、その
「お主が殺めたのは郡の捕吏。さては罪人と見た。世に
余祭は宝剣の莫邪を抜き放った。その刀身は月光に照り返され、寒々しいほどに美麗な
「……故はないがその命、
言うなり、余祭は虚空高く跳躍した。
夜眼にもそれとわかるほどの、眉間へ刻まれた深い皺の
「チッ」
若者は舌打ちするや、
月光に照らされ、青々と煌く二本の剣が交錯するや、高く悲しげな金属音が
「――――⁉」
一撃を
「ま、待て――‼」
息を荒げ、
「確かに見たぞ。汝の剣に刻まれし銘、莫邪。我が母の拵えし宝剣、莫邪ではないのか――⁉」
「な、何と――⁉」
誘われたように、余祭と若者の二人が出会ったこの場所こそ、奇しくもかつて干将と莫邪が、雌雄一対の宝剣を拵えた山中だった。
剣を抜き放ったまま対峙した二人は、互いに己が素性を明かしていた。
「貴殿が名工と
「
聞けば、母、莫邪を刺客に討たれ亡くした後、ひとり逃れた干赤は楚王より
「どうか、母の拵えし宝剣、莫邪をこの手に拝見させてはもらえませぬか?」
「是非もない」
莫邪の剣を手にした干赤は、その刀身、そして彫られた母の名に見入った。照り返された月光が眼に沁みたように、干赤の頬には静かに熱いものが伝った。
囃すような秋蟲の音が弱まり、夜と朝が混じり合う、しらしら明けの頃合だった。
意を決したように、干赤は炎を宿した瞳で
「余祭さま、我らの宿願は楚王熊招の誅殺。我が首を持ち、熊招に近づかれよ」
余祭が止める
「――――⁉」
鮮血が噴き乱れては降り注ぐ、干赤の首なき熊のような
「……お主の想いに決して背かぬぞ、干赤」
言い終えるや、まるで想いを遂げたかのように、屍体と化した干赤の
朝陽が、
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