報仇の剣
熊谷 柿
第1話 危うし、干赤
天には悲愁の色を帯びた月が浮き、涼風は群生した草々を優しげに撫でていた。
そんなある一夜のことであった。
とある山中に息も絶え絶え、迷い込むよう逃れてきたのは、
熊のような
「まだ追ってくるか……」
駈けながら一度振り返った干赤は、眉間の皺を更に深くし、月夜へ渋面を
干赤は、丈夫な
干赤は、月光に照り返されては青白い光を放つ得物、その柄を力強く握り締めた。それは青鋼剣だった。干赤の父と母が鍛え上げ、今やその形見となった、唯一無二の代物である。
俄かに、未だ見ぬ楚王の
「楚王の命脈を絶つまでは、死ねぬ‼」
決意を更に強固なものにするよう地を蹴っては、
干赤は激しく肩で息をすると、弱々しい月光を頼りに渓川の流れを見遣った。
「いたぞ! 必ずや討て!」
依然として後方からは数十の
「チッ」
舌打ちをした干赤は、渓川を背にして振り返ると
「……やるしかねえ」
干赤は
干赤を取り囲むように、捕吏たちが
「もはや逃れられぬぞ。眉間尺よ、さっさと観念いたせ!」
捕吏の長らしき壮漢が、干赤へ矛を突き付けるようにしてにじり寄った。
すると――。
干赤は、
「――――⁉」
続々と蝟集してくる捕吏たちが、挙って狼狽した刹那だった。
捕吏たちの群れの中へ、獰猛な熊が跳躍したようだった。
干赤は鋭利な戟を
それは、舞のようだった。
追い遣った獲物を仕留めるように、月光に切っ先を煌めかせた無数の凶刃が、四方、八方より繰り出されている。
干赤は、身を翻らせて
「ヒッ」
捕吏たちの長が恐怖の声を上げるや否や、その首は血汐の尾を引き月夜を踊った。
まさに束の間だった。
瞬く間に死屍と化した数十の捕吏たちが累々と倒れ伏したその中央では、返り血を浴びた干赤が、乱れた呼吸を整えるようにして、
月光に照り返された青鋼剣が、依然として静かに青白い光芒を放っている。
刹那、干赤の背後に流れる渓川の岩場から送られているものがあった。
視線だった。
さすがの干赤も
先刻までの捕吏たちとはまるで異質だった。
月光に照らされ、闇夜から浮き出たその偉丈夫の
冷然とした気配に、干赤は
秋蟲たちが再び、
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