第2話 好きでもない男と付き合うなんて、馬鹿ですか?
「……褒めてくれてありがとうございます」
そう言って、諏訪ちゃんは私から目を逸らした。その頬が赤く染まっていて、照れているのが分かる。
あ、なんかこういうところは普通に諏訪ちゃんだ……。
「それより、その、持田さんは大丈夫ですか。あの人、彼氏さんですよね」
「あー、うん。まあ、一応……?」
「一応?」
「付き合って2週間とかなの。まあアリかなって思って付き合ってはみたけど、やっぱ無理だなって思って振ったら、ああなっちゃって」
俊輔さんと付き合うまでの日々を思い出すと、溜息が出てくる。
マッチングアプリでまともそうな人を探すのはかなり大変だったし、知らない人とのメッセージなんて楽しくないから、大半が苦痛だった。
写真詐欺の人だっていたし、仕事を嘘ついてる人もいたし。
またアプリを始めなきゃいけないのかと思うだけで憂鬱だ。
「なんで無理だって思ったんです?」
「条件で選んだけど、普通に全然好きじゃなかったの。顔も性格も。いい人ではあったけど、こんなに好きじゃない人と結婚とか、やっぱりしんどいなって思って」
会社では、ここまで正直に話すことはできないと思う。
だけどここが休日のショッピングモールで、諏訪ちゃんの趣味がコスプレ、という事実を知った後だからだろうか。
なんか、素で喋れてる気がする。
「……持田さん」
「なに?」
「好きでもない男と付き合うなんて、馬鹿ですか?」
別に、悪気があって言っているわけじゃないことは分かる。
諏訪ちゃんは言葉選びが下手というか、あんまり気が遣えなくて、職場でもよく上司に怒られてるし。
それに……。
「そんなの、私だって分かってるよ」
焦って婚活して、条件重視で好きでもない男を選ぶ。それが合う人だっているだろう。だけど私は全然楽しくないし、ときめかない。
馬鹿なことをしている。その自覚はある。
「でもじゃあ、どうすればいいの?」
「持田さん……」
「私はどんどん年をとっちゃうし、結婚に向いててその上タイプな人と出会える確率なんて低いのも分かってるし」
28歳というのは、絶妙な年齢だと思う。
焦るほどの年齢じゃない、という意見にも納得する一方で、既に結婚している友達を見て焦ったりもする。
婚活においては、30歳をこえると、相手が求める条件から除外されてしまうことも多いらしいし。
それに私は、どっちつかずの人間だ。
結婚したい! 子どもがほしい! って、昔からずっと思っていたわけじゃない。
だけど、結婚なんてしなくても大丈夫だから! と言える強さもない。
婚活や恋愛に興味がない友達は、仕事で上にいくために頑張っているバリキャリがほとんど。
それに比べて私は、仕事に対するモチベーションもない。
「……馬鹿だって分かってても、つい、付き合っちゃったの」
付き合えば、好きになれるかも、幸せになれるかも、なんて期待してた。
「そうなんですね、いろいろですね。……じゃあ、私はこれで」
「は!?」
立ち去ろうとした諏訪ちゃんの手を慌てて掴む。
普通、この状況で帰るとか、ある!?
私の悩みを聞く流れだったよね!?
「諏訪ちゃん、時間ないの!?」
「いやまあ、別に特に用事はもうないですけど……そろそろ帰る予定でしたし」
スマホで確認すると、現在の時刻は18時過ぎだった。
「明日は?」
「……休みですし、何もないですよ?」
諏訪ちゃんは何を聞かれているのか分からない、という顔をしている。
そんな顔をしていても、今はエドワード王子の姿だから、めちゃくちゃ格好いい。
やっぱり顔って大事だよね。
夫がこんな顔だったら、絶対毎日幸せだもん。
「諏訪ちゃん」
「はい」
「今からうちにきて。愚痴聞いて」
「……はい?」
「好みの顔を見ながら、酒飲んで愚痴りまくりたい気分なの、今!!」
はあ……と呟いた諏訪ちゃんを、私は強引に引っ張って歩き出した。
迷惑極まりない先輩だとは分かっているけれど、今日だけは許してほしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます