第27話 チャンスを手に入れるのも実力のうち?
高校生のサッカー大会は、男子も女子も夏のインターハイと冬の選手権がメインだ。
わたしたちの高校は、インターハイの全国大会に出場するのが目標だけど、現実的には、県の予選リーグに勝ち残り、決勝トーナメントで1回勝ち上がって準決勝まで残って県のベスト4に入ることが目下の狙いだ。そうすれば、秋から始まる県の選手権で予選リーグを経ずともシードで決勝トーナメントに残ることができる。
決勝トーナメントを勝ち残れば、近県の代表同士で戦う
いずれは全国大会に出場したい。
でも、昨年までの大会では、予選リーグを勝ち残るのがやっとで、決勝トーナメントを勝ち抜くことができず、万年ベスト8だったらしい
今年は、今までのところ、4戦あるうちの予選リーグの3戦を終えて、2勝1分けと、おおむね順調で決勝トーナメントへの出場は既に決まっている。
その中で、ゴトゥーは予選リーグ3試合で合計7得点を上げたことで、あっと言う間に注目されるようになっていた。
「ゴトゥーって何者? あんなに点を決めるのに、なんでうちの高校にいるの?名門から推薦の話なかったの??」
練習後、更衣室でニシザーに尋ねた。
「ああ、ゴトゥーって、ああ見えて帰国子女で、どこの国だったかな?」
…………
「えええ!?」
わたしの頭が一瞬理解を拒否した。
「外国でサッカーやってたけれど、ご家族の帰国に合わせて、中3のときにこの街に来て、一般受験でうちの高校に入ったんだって言ってた。だから、実力はあるんだけど、日本では全く知られていなくて、どこからも推薦入学の話がなかったみ……」
「家から近いし、サッカー部あるし、このコーコーに入るしかないじゃーん♪ 」
わたしとニシザーの肩に腕を掛けて、ゴトゥーが話に割り込んできた。
「ゴトゥー、えーご喋れるの?」
「あたし?日本語しか話せない残念帰国子女だよ♪ 」
わたしの質問にゴトゥーがなぜか偉そうに胸を張って答える。
「あちこち行ってたし、どこでも日本人学校だったし。でも、サッカーに言葉はあんまり関係なかったもん」
「わ、ゴトゥーが普通にしゃべった!!」
「ハセガー……、いくらなんでも、それひどい。ゴトゥーはこう見えても成績いいんだよ」
「いや、こう見えてもって、ニシザーもひどいじゃん」
「ハセガーもニシザーも、あたしのことをなんだか僻んでいるらしいというのは分かった♪ 」
「「ちげーよっ」」
3人でけらけらと笑う。
「でも、4アシスト1ゴールのニシザーももっと褒められるべき♪ 」
ゴトゥーの7得点のうち、3点はニシザーがアシストしたボールだったし、逆に、ゴトゥーがゴール前に上げたボールをニシザーが決めたこともあった。
「ゴトゥーのクロスボールがいいところに来たからね」
ゴトゥーがニシザーを褒めるので、ニシザーが照れ笑いを見せた。
「あたし、あたし、ニシザーとコンビプレイやれてうれしー♪ ニシザーと二人でツートップでやりたい♪ 」
ゴトゥーが一人でくるくる回る。
「ツートップ?」
涼が首を傾けると、雅が答える。
「んんー、
サッカーはキーパー以外の10人を、おおむね
「ツートップで、コンビプレイで点をばんばんとってー、『双翼』みたいなかっこいいあだ名をつけてもらうのー♪ 」
「やだ」
ニシザーがにっこり笑って、ゴトゥーの願望をざっくりと拒否する。
「えー!?」
ゴトゥーが口を尖らせる。
「ハセガーも入れて、『三羽烏』とか『トライアングル』みたいのがいい」
ニシザーがけろっとわたしを仲間に引き込む。
「うえぇ」
わたしがうめくと、ゴトゥーは目を丸くしてから笑う。
「それでもいー♪ 」
「待って、君たちはレギュラーだけど、わたし、ベンチにも入れてないよ」
一人焦る。
「じゃあ、早く、レギュラーになればいいじゃん」
ニシザーが歯を見せて笑った。ゴトゥーもそれに続く。
「早く早く♪ 」
二人は気軽にわたしをけしかけてくる。
簡単に言ってくれるじゃないか。
ベンチ入りするキーパーの枠は二人。しかも、ゴールキーパーが試合で交替することはほとんどなく、スタメンを勝ち取れるのは、チームでたった一人ともいえる。
3年の宮本先輩と2年の林先輩。そのどちらかを蹴落とさなければ、わたしはベンチ入りできない。宮本先輩が引退すればベンチ入りできるかもしれないが、現状では、林先輩がいるからスタメンにはなれない。しかも、次の年に経験のある巧い1年生キーパーなんてものが入学してくれば、落とされるのはわたしだ。
見てろよ、と思いながら、ばんっとロッカーを閉めた。
ところが。
予期せぬ形で、ベンチ入りがわたしに回ってくることとなる。
予選リーグ4戦目。
決勝トーナメントに進むことが決まっていることもあり、この試合のキーパーは2年生の林先輩が出場し、宮本先輩は決勝トーナメントに備えて控えに回った。
その林先輩が、試合の前半で負傷してしまったのだ。
林先輩は高く上がったシュートボールをキャッチして、地面に降り立った際に、運悪く、滑り込んでいた敵選手の足を踏んでしまい、バランスを崩して地面に転がった。
その時、敵選手の足を踏んだ方の足を捻り、しかも、予想外の転倒で受け身も取れなかった。動けなくなった林先輩に選手たちが駆け寄る。主将の原先輩が、監督である大久保先生に向かって腕を交差させ、「×」だと伝えた。林先輩は担架でピッチから出され、代わりに3年生の宮本先輩が試合に出て、原先輩とゴトゥーが得点を決めて2ー0で予選リーグを終え、次は決勝トーナメントになるが、チームの雰囲気はさすがに暗くなってしまった。
林先輩は応援に来ていた誰かの父兄の自動車に乗せられて病院に連れて行かれ、わたしは林先輩に付き添って試合会場から病院に来ていた。試合中の負傷と、それによる途中退場の辛さはわたしもよく知っている。
病院で林先輩は無言で痛みや悔しさに耐えていた。掛ける言葉がない。
林先輩から見れば、わたしは後輩かつ宮本先輩の後の正キーパーを狙うライバルでもある。わたしは、中学校時代に1年生で3年生からレギュラー、スタメンを奪い取ってひどく嫌われた。中学生と高校生では違うのかもしれないが、ポジションを争うことになるわたしに林先輩は冷たく当たることはなく、宮本先輩と二人で鍛えてくれていた。
待ち合い室で林先輩が突然、わたしの左の手首を握った。
「頼むからね、ハセガー」
「先輩」
「この足じゃ決勝トーナメントもう出れないから、宮本先輩のリザーブはハセガーしかいない」
「……はい」
「宮本先輩がいるから大丈夫なんて思っちゃダメだよ。代わりを任せられる後輩がいるから、先輩が頑張れるんだよ。私の分も宮本先輩を支えて」
しっかりと頷いた。
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