人の心配より、蜂谷をなんとかしろ
デザートはクレマ・カタラナを食べた。
これ、クレーム・ブリュレに見えるが、と思いながら、杏は律を観察していた。
ちら、と見るとかではなく、ガン見していると、律が困ったように、
「……杏さん」
と言ってきた。
向井が溜息をつき、
「やめてやれ、鷹村」
と言う。
「何故、律に喧嘩を売る」
「喧嘩は売ってませんよー。
律くんは大人だなあ、と思って眺めてたんです。
蜂谷と何処が違うのかなあ、と思って」
「蜂谷は子どもか?」
「すぐ喧嘩腰になりますからね」
「年が近いとそうなりがちなんだ。
うちもそうだった」
カフェ・ソロという、おそらくエスプレッソだと思われるものを飲みながら、向井が言った。
「あー、課長、すぐ怒りそうですもんね」
「すぐ怒るのは向こうだ。
俺は言い返しても仕方がないと思って、黙って聞き流そうとしていた」
またまた、と笑うと、
「本当だ」
と睨まれる。
律を見ると、
「それが本当なんですよ、杏さん」
と言って、溜息をついた。
「最初は我慢してるんです。
でも、その態度にもたぶん、母さんはムカついてたっていうか」
律の言葉に、なにがだ!? という目で向井が見る。
「女の言うことになんか言い返しても仕方がないって顔をして、黙ってるから。
でも、そのうち、我慢し切れなくなって、理路整然と反論し始めるんですよ。
じわじわと相手を追い詰めてくみたいに」
怖いよ、と思いながらも、容易に想像がついた。
よくそういう叱られ方を自分もしているからだ。
「わかる、それ」
と言って、テーブルの上にあった律の手を取ったが、律は赤くなって、さっと引っ込めてしまった。
向井は、なにやってんだ、という顔をしたあとで、
「……息子ってのは、なにがどうだろうと、母親の味方だからな」
と嫌味を言ってくる。
「そりゃ、そういうもんじゃないですか?
子供にべったり付いて面倒見てるの、やっぱりお母さんが多いですもんね」
まあ、その反省点を次回に活かせばいいじゃないですか、とまとめようとすると、
「……なにが反省点だ」
と脅すように見られた。
……だから、その目が駄目なんじゃないですかね? と思う。
「反省とかなんとか、俺はもう結婚しないから関係ないんだ」
と言い切る向井を律が不安そうに見ている。
もう復縁する気はないのかと思っているのだろう。
だが、さっき見た感じでは、もう律の母親は戻ってくる気はないようだった。
向井がどうというのではなく、相手の男の人と居る感じが、しっくり来ていたというか、落ちついていたというか。
あれはあれで、もう、ちゃんとした家族だな、という感じがしたからだ。
だが、律はそんなことは知りたくないだろうと思い、黙っていた。
「お前、人の心配より、蜂谷をなんとかしろよ」
と八つ当たりなんだか親切なんだかわからない口調で向井が言ってくる。
「そうだよ。
もう何年も罪の意識を背負ってる、こっちの身にもなれよ」
と浅人まで尻馬に乗ってきた。
「すぐ別れてもいいから、とりあえず、一度つきあってくれ。
な?」
つきあう前から、なんてこと言いやがる、と思った。
「よし、俺が明日、蜂谷にお前とつきあうよう言ってやる」
「余計なことしないでくださいよーっ」
律、止めてっ、と振り向いたが、律は無言だ。
なにか考えている。
「止めてよ、律。
この人、本当にやるわよ。
律っ。
なんのために、課長の息子なのよっ」
「いや、お前のために課長を止めるためじゃないだろうが」
と動転した杏に呆れたように浅人が言う。
いやいやいや、あんた知らないでしょうが、この人は本当にやるのよ、と思っていると、向井は溜息をつき、
「ケモノと違って人間は厄介だな」
と言い出した。
「うちの近所の猫なんか」
と言い出すので、
「すみません。
盛りのついた猫と我々を一緒にするのはやめていただけませんか……」
と言ってみたが、
「猫のようになれとは言わないが、鷹村、お前は考えすぎだ!
そして、隙がなさすぎる!」
となにかの託宣のように告げられる。
「そんなだったら、蜂谷もちょっと試しに告白してみようって気にもならないだろうがっ」
何故か、浅人が小さく手を叩いていた。
いやあの……ホテルに連れ込んだ挙句に、キスしてきた貴方が、隙がないとか主張してきても、なんの説得力もないですが、と思って聞いていた。
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