実は腹黒いのでは……



 ……美しい姉弟のようだ。


 俺よりも姉弟っぽいな、と浅人は一人手すりにつかまり、二人で雑誌を広げて眺めている杏と律を見下ろしていた。


 ずらして帰ったはずなのに、杏も友達と食事に行って電車に乗ったので、結局、一緒になってしまったのだ。


 まあ、こうして、俺が見張ってるからいいか、と蜂谷に対する言い訳を考える。


『なんで、今日、カラオケ誘ってくれたの?』


 電車に乗る前、律が訊いてきた。


『あのメンバーのときは、いつもなら、僕は誘わないよね』


 そうだよ。

 他校の可愛い子いっぱいだったのにっ。


 今日は二人も律に持ってかれたぞ、と思う。


 彼女たちは、まるで、王子でも見るかのように、律を見ていた。


 そのうちの一人をかなり気に入っていたことは、律たちには伏せておこう、と思う。


 ちょっとした心の傷になりそうだ。


 おのれ、蜂谷め、と思った。


『もしかして、僕を見張ってる?』

 そう笑って律は訊いてきた。


 こいつ、可愛い顔して、鋭いんだよな~と思っていると、

『まあ、あんな綺麗なお姉さんだもんね。

 浅人は、杏さんを守る騎士ナイトみたいだね』

と言ってくる。


 いや、騎士は蜂谷だ。

 あいつ、絶対、今までもいろいろ裏工作して、杏に近づく男を追い払っていたに違いない。


「あら、杏。

 どうしたの?


 可愛い男の子、二人に囲まれて」

と声がして、杏が顔を上げる。


 見ると、高校のとき、一、二度見たことのある杏の友人が立っていた。


 きゃーっ、と二人は手を合わせ、再会を喜び合う。


「久しぶり。

 ちょっと実家に帰ってきてたのよ。


 あれっ? もしかして、浅人くん?

 ますます格好よくなっちゃって」

と可愛いお姉さんに言われ、どうも、と機嫌よく答える。


「こっちの美少年は、誰?」

と律を見る。


「浅人のお友達の律くんよ」

と紹介されて、律はちょっと寂しそうだった。


 そのまま、二人で話し出す。


 それを見上げている律に、

「女三人寄るとって言うけど、二人で充分かしましいよな」

と言うと、笑った。


「そういえば、蜂谷くん、元気?」

「なんで私に訊くのよ」

と杏は腰に手をやり、睨んでいたが、


「……元気よ」

と答えていた。


「もういい加減、つきあってるの?」

と笑われ、


「つきあってない。

 っていうか、もういい加減ってなに?


 この先もつきあう予定なんてないから」

と言い返し、はいはい、と言われている。


 話している二人を見ながら、

「ねえ、杏さんは、なんで、蜂谷さんと、つきあってないの?」

と律が訊いてきた。


 あー、それは、俺的に追及されたくない話題だ、と浅人は思う。


「杏はなー。

 自分の前に誰かとつきあってた男は駄目なんだ。


 無茶だろ。

 いい大人が、なに言ってんだって感じなんだが」


「そう?

 純粋でいいじゃない」

とたぶん、まだ、誰ともつきあったことのない律は軽く言う。


 確かに、そういう意味では、律の方が遥かに有利だ。


「でも、杏が未だに蜂谷とつきあってないのは、半分は俺のせいなんだよなあ」

と浅人は告白する。


 杏は蜂谷の中学時代の彼女に殴られ、過去、誰かとつきあってたような男は嫌だ、と思ったらしいのだが。


 その傷も癒えた頃、蜂谷がまた、卒業間近にして、突然、他所の女子校の生徒の告白を受けてしまったのだ。


「それは駄目じゃん」

と律が言う。


 いや、それが、と浅人はつり革に、がっくりとぶら下がる。


「それが、原因は俺だったりして。


 俺と杏は年が離れてるから、高校では一緒にならなかったし、蜂谷は俺の存在を知らなかったんだ。


 杏が俺の誕生日に、スニーカー買うのついて来てくれて。

 まあ、俺も子供だったし、まだ姉ちゃんにベタベタしてた頃で」


「あんな綺麗なお姉さんなら、自慢だよね」


「……しゃべらなきゃな。


 俺、昔から、デカかったんだよなー。


 蜂谷は俺と居る杏を見て、やっといい雰囲気になってきたと思ってたのに、杏が別の男とつきあい出したと思って、カッとなって、そのとき、たまたま告白してきた子に、つきあうって言ったみたいなんだよね。


 結局は、つきあわなかったみたいだけど。

 どっちも江戸っ子みたいに気が短いからな。


 そのまま、グダグダで今に至るというか」


「それで、浅人は、蜂谷さんの味方なの?」


「っていうか、単に好きなんだよ、蜂谷が。

 あんな兄貴だったらいいかな、と思って。


 どうせ、いつか誰かが俺の義兄になるんならさ」


「僕と浅人も仲いいよね」


「……そうだな」


「僕らもきっとうまくやっていけるよ」


 は?


「でも、今日はいい話聞いちゃった」

と律は笑う。


「杏さんは、過去に誰かとつきあったことのある人は駄目なんだね。

 じゃあ、あの人とか絶対無理だね」

と可愛い顔で言った。


 あの人って誰? と思ったとき、律は立ち上がる。


「じゃあ、僕、此処で。

 杏さん」

と杏に呼びかけ、律は振り向いた二人に頭を下げた。


「じゃあ、またね、律」

と杏が手を振る。


「はい、またぜひ」

と丁寧にお辞儀をする律に、杏の友達まで、


「やだ、かわいーっ」

とか言っている。


 だが、浅人は固まっていた。


 確かに、可愛い。

 だが、あいつ、恋愛に関しては、結構腹黒くないか?


 二人は最後まで律に手を振りながら、まだ律の話をしていた。


「なに、杏。

 あの子、仔犬王子とか呼んでるの?」


「違うわ。

 それ、蜂谷が名づけたのよ」


「蜂谷くん、公認の王子なの?

 なにそれっ」

とお友達は笑っている。


 いや、杏……。

 あいつ、見た目通りの可愛い仔犬じゃないかもしれないぞ、と思いながら、浅人は遠ざかるプラットフォームの明かりを眺めていた。









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