第3話 当面の目標が出来ました

「見て見てーお母さん!あはは!このお兄ちゃん裸だよー!」

「きゃあああああああああ変態よおおお変態がここにいるわああああ!」


 意識が戻って、最初に目にしたのは笑顔で俺の大事な所を指さす女の子と必死でその子の目を塞ぎながら何やら叫んでいるお母様。


 ここはどこ?今どういう状況??


 朧げな意識の中、何とか身体を少し起こして辺りを見渡してみる。見ればそこには、記憶の奥底だが確かに見た事のある懐かしい風景が広がっていた。


 うん、間違いない。ここは俺が元いた国、日本。そして俺の生まれた町。てことは――


「うおおおおお!帰ってきたぞおおおお!くぅちゃあああああああん!!」


 俺は人目もはばからず、立ち上がって歓喜の雄叫びを上げた。


「…なんだなんだ?うわああ何だありゃ!?昼間っからマッパで道路の真ん中で叫んでやがる変態がいるぞ!?!?」


 何やらゾロゾロと人だかりが出来てきている。帰ってそうそう変態のお出ましか?ははは、全くここも物騒になったもんだなあ。


「捕まえて!誰かこの変態を早く捕まえてえええええええええ」


 ん?よく見ればこのお母様、ずっと俺の股間を指さして叫んでないか?


 そこでようやく俺は自分の姿を確認する。…白昼堂々生まれたままの姿で突っ立っている変態がいた。


「いや…これは違うくて…っ!俺は異世界から帰還した勇者で、今やっとの思いで帰ってきた所なんですううう」

「やべえぞ…。コイツはもう手遅れだ!挙げ句の果てに自分が勇者とか言い出したぞ!?お前みたいな変態が勇者でたまるか!皆で捕まえろおおおお」

「「おおおおおおおお」」


 クソが!帰って早々何が嬉しくて野郎共に追いかけられにゃならんのだ。


 とにかく今は逃げるしかねえ。走っている最中、女性の声が聞こえてきた。頭の中に直接語りかけらている、変な感じだ。


「奏多くん!奏多くん!」

「…その声は、ヴィネラ様?」

「そうだよー!貴方の女神、ヴィネラです!ずっと語りかけてたのに今頃気づくなんて、奏多くんってばホント鈍感っ!」

「それよりも今めちゃくちゃ大変な事になってるんですが!素っ裸で今絶賛不審者っス」

「ふふっ全部見えてるよ?転送する力に耐えきれなくて服が耐えきれなかったみたいだね。ごめんね奏多くんっ!でも私だって男の子の裸見るの初めてで、今めっちゃ恥ずかしがりながら話してるから許してねっ!」

「何て不親切なシステムだよ!てか昨日から、もういよいよ俺のよく知る女神様の口調じゃないですね!」

「そりゃあずっと猫被ってたからね♡ほんっとキャラ作るの大変だったんだからっ。こっちが本当の私だよ?でもでもー、こっちの方が可愛いでしょ?」


 猫被ってたからね♡…じゃあねえんだよ。てかこれが女神の本当の性格か。何て軽いノリだよ。


「はあ…。それでヴィネラ様――…いや、もうヴィネラでいいや。俺はお前に色々聞きたい事があるんだ。主に転送される前に最後に聞いたお前の言葉の事で」

「ぎくっ!!そ、そそそんな事より今はどっかに避難する事が先じゃない!?それにそれに、今の貴方の身体の状況とか時間がどれくらい元の世界で経過してるのかとか色々説明が欲しくない?欲しいよね?だからその事は一旦忘れようよ!ね!?」


 めちゃくちゃごまかされている気がするが、確かにコイツの言う通りだ。そこら辺の説明が全くないまま転送されたからな。


「分かったよ…」

「さっすがぁ話が分かるぅ!そうと決まればまずは逃げないとね!凄く簡単な話だよ!奏多くんは勘違いしているようだけど、元の世界に戻ってもこっちの世界で鍛えた能力はそのままなの。だから奏多くんならすぐに逃げれるはずだよ。あっ、闘気は纏っても普通の人には見えないからそこら辺も心配しなくて大丈夫だよっ」

「マジ?勇者の力そのままだと、この世界じゃ危ないんじゃないか?」

「力の使い方を間違えたらね。だから本当にここぞという時にしか絶対に使っちゃだめだぞ?奏多くんが本気を出せば町一つなんか余裕で滅ぼせちゃうんだから」


 俺は試しに闘気を纏ってみた。本当だ。あっちの世界の時と何ら変わらず使えるぞ。追いかけている奴らも俺の闘気は全く見えていないようだった。これなら――


「変態が消えただと!?」

「クソっ!あの変態一体どこに行きやがった!?」


 俺は常人が目視出来ないスピードで、とりあえず近くの公園にあるトイレまで逃げ込んだ。


 ふう…とりあえずこのままここでやり過ごすとするか。まさか元の世界に戻って最初に力を使ったのが、こんな事の為なんてな。


「上手く逃げれたみたいだねっ!じゃあはいこれ!」


 ヴィネラがそう言うと、すぐさま何も無い所から下着と服が出現した。これは素直に有り難い。コイツには言いたい事は山ほどあるが、流石にこれには礼を言っとくか。


「ありがとう。助かるよ」

「このくらいはねっ!着ながらでいいし、大事な事だけ説明したいんだけどいいかな?」

「ああ、頼む」

「かなーり長い間奏多くんはこっちの世界で過ごしたでしょ?でもずっと見た目は若いまま。もう分かってたと思うけど奏多くんの世界と、私の世界では時間の経過が全然違うの。だからそっちではまだ半年程しか経ってない筈だよ。でもでも、寿命は安心してね!そこらへんは大丈夫なようになってるからっ。あとね、せっかく帰れたのに元の世界の記憶が曖昧だったら大変だから簡単に思い出せるようにしておいたわ」


 なるほどな。母親とくぅちゃんの事だけはしっかり覚えているが、他は全部忘れていても仕方がなかった。目覚めた時、簡単に自分の町だと思い出せたのはヴィネラのおかげだった訳だ。

 

 あれだけ自分でも数え切れない程長い間向こうにいて、たった半年か。普通の人より長く生きれたわけだし、大変だったけどそこは喜んでいいのかな?


 でも俺確か高校生で…。流石に留年は確定かな。また一年生からやり直しだ。あ…でも俺死んだ事になってるから、普通もう除籍されてるよな。


「あー!今奏多くん色々面倒くさい事考えてるでしょ?大丈夫だよっ!こっちの方で細かい事は何とか魔法でちょちょいと解決しとくからねっ」

「俺魔法が使えないからアレなんだが、そんなに万能なもんなのか?」

「過ぎ去った時間は元に戻せないし、人を生き返らせたりは流石にどんな魔法使いでも無理ね。あと人の感情も魔法ではどうにもならないわ。でも逆にそれ以外の事なら、女神の私なら何だって出来ちゃうものよ?奏多くんは童貞でどうしようもなく変態だけど、勇者で恩人だから出来るだけのサポートはしてあげるから安心して今後の人生をエンジョイしてねっ」


 ヴィネラがこれからもサポートしてくれると言う事みたいだ。


 童貞で変態の部分は余計だけど、ヴィネラなりに一応恩義は感じてくれているんだな。


「最後にもう一つだけ!てかこれは奏多くんにとって一番大事な事だと思うけど、くぅちゃんの事!自動的に人語や最低限の知識は得た筈だけど、やっぱり元猫ちゃんだから人の世界の常識とか分からない事だらけだと思うのっ。だから奏多くん、その辺はしっかり貴方がサポートしてあげてねっ!」

「それは勿論。俺が死ぬまで支えてあげるつもりだよ」

「なら安心だねっ!また何か私にサポートして欲しい事があったら、心で強く『可愛い可愛いヴィネラ様ぁぁぁお助けぇぇぇ』って念じてね!よっぽど忙しい時以外はこの私が助けてあげちゃう♡じゃあ説明も終わった事だし、私はこれで――」

「待て。まだだ」

「な、何かな?」


 色々教えてくれてありがとう。だけど今の感謝とさっきの事は別物。逃げようったってそうはさせないさ。


「お前の俺を転送する直前のあてつけみたいな態度、アレは一体どういうつもりなんだ?めちゃめちゃ腹立つ顔で煽ってたが」

「あ、あはは〜。ただのイタズラよっ!イタズラっ!最後に奏多くんの困った顔が見たくなっちゃったっていうか〜…ほらっ、私ってこんな性格じゃない?」

「………」

「ぷぷっ、奏多くんのきょとんとした最後の顔、思い出しただけで笑っちゃうっ!」

「………」

「あ、あれれ?本気で怒っちゃった?ごっめーん!私だって早く言ってあげようか迷ってたんだよ?でも途中でショックで勇者辞められたら…ね?」

「………。それで、くぅちゃんが俺の事嫌いってのは本当なのか?」

「残念ながらそれは本当っ。なんかね、時々話相手になってたんだけど『抱っこしすぎてキモい』とか『とにかく顔が近くて息がドブ臭い』とか散々な言われようだったよ?」

「ぐはあっ!」


 何だこれ…ダメージが想像以上にでかすぎる。特に息がドブ臭いの部分がやばい。クロエ達にも実は臭いと思われてたのか?いや、でも三人はそんな感じはしなかったぞ!?


 構いすぎてくぅちゃんにはウザがられてたのかな?でも、俺の記憶にあるくぅちゃんは確かに喜んでいたように見えたんだが。


 まあいい。俺はくぅちゃんに愛されているという確固たる自信はあるし、ヴィネラが本当の事を言ってるかどうかは、実際に会って見たら分かる事だ。


 それよりも今は――


「さっきも念話で、奏多くんが帰ってくる事を伝えた時の反応ときたらねっ?これがもう傑作でねっ?思い出したらもう…ぷぷぷ、あはははははは!」

「…少し黙ろうか(ニッコリ)」

「ひぃ!?」


 よっぽどツボに入ったのか知らんが、爆笑し続けるヴィネラをドスの効いた声で黙らせる。

 

「途中で勇者を辞退されたら困るから、最後まで隠してたんだっけ?うんうん、分かるよ。そりゃ女神って立場だもん。しょうがないよね」

「そ、そうなのよっ!私にも立場がどうしてもね…?」

「お前が俺に一応感謝してくれてるって事も分かった。これからサポートもしてくれるみたいだし、大事な事を隠していた事は俺の広ーい心で許そうと思う」

「ほんと!?ありがとっ!よく見ればその、奏多きゅんって格好いいと思えてきたかもっ!ヒューヒュー!サポートは私にま――」

「だけどなあああああ」

「ふぁい!?」

「テメエのその煽り腐った態度だけは許さあああああああん!!」

「ひあう!?!?ごめん、ごめんってえええ!悪気はないのよおお!その、えへへ、てへぺろにゃん♡」

「てへぺろにゃん♡…じゃねえええ!悪気しかねえだろうがあああああ!」

「あ、私用事思い出した!じ、じゃあ奏多くんまったねー!またサポートして欲しかったら呼んでねー!!」

「お仕置きしてやる!待てコラぁぁぁ!!」


 強制的に念話を切りやがった。その後何度も心の中でヴィネラと会話を臨んでみるものの、一向に繋がらない。


 ヴィネラの声でふざけた留守電音声が流れるのみだ。


 クソが…。どうにかしてこっちに来させてえ。念話も出来た事だし、もう関わりはないと思ってたあっちの世界とも案外今の俺なら簡単に繋がれるのかな。


 クロエ達、今頃何してるかなあ。


「はあ…。今は気持ちを切り替えて、家に帰って感動の再会といきますか!」


 俺はヴィネラにきつ〜いお仕置きをする事を当面の目標にして、まずは家に帰る事にした。

 



◇◇◇


面倒な説明事項も終わり、次回はようやくくぅちゃんとの感動の再会…?です!


これからもこんな感じでゆるーいノリでクスっとなるラブコメを目指しますので応援よろしくお願い致します!


              月美夜空

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