2.『バグってる距離感』

 鉄板の上でジュウジュウと音を立てるステーキを挟み、康太こうた怜亜れいあは向かい合って座っていた。


 誕生月の特典で半額とはいえ、高校生には少し贅沢な価格帯の店だ。


 ステーキの熱が少し落ち着いたころ、怜亜は思い切って本題を切り出した。


「……康太くんって、付き合う気はないんだよね?」


「ん? ないぞ」


「じゃあ、友達?」


「いや、友達ではないだろ」


「……じゃあやっぱり恋人?」


「いやいやいや!! なんでそうなる!? そういう本でも読んだのか!?」


 康太は過剰なまでに否定した。


 ――むしろ、こっちが驚くほどに。


(付き合う気もない、友達でもない……でも、好きだって言ってる……?)


 怜亜はますます混乱した。


「……あ、お肉ちょっとくれない?」


「は?」


「そのシャトーブリアン、めっちゃうまそうじゃん。代わりに俺の安い肉やるからさ」


「……もう、仕方ないな」


 呆れながらも、怜亜はナイフで少し大きめにカットし、一切れを康太の皿へと移した。


(ただ優しいだけじゃなくて、遠慮もないし……ほんと、謎すぎる)


 考えるのが馬鹿らしくなった怜亜は、ひとまず美味しい肉を堪能することにした。


 ――そして食べ終えた後、康太は何の迷いもなく会計を済ませた。


「ちょっと、私の分も払うって!」


「え? いいよ」


「いや、よくないから!」


「気にすんなって」


 財布を押し返され、結局怜亜は支払わせてもらえなかった。


(……もう、なんなのこの人)


 強引だけど、押しつけがましくない。どこか自然で、当たり前のように優しい。


 怜亜は、康太と一緒にいることに不思議な安心感を覚え始めていた。



 

 それから、康太と怜亜は学校でも放課後でも一緒にいる時間が増えた。


 当然、周囲も気づく。


「ねえねえ、康太くんって、怜亜ちゃんのこと好きなの?」


 親友の美香だけでなく、クラスの女子友達数人が興味津々で聞いてくる。


 一方、康太がよくつるんでいる男子グループの方でも、二人の関係が話題になっていたらしく、ちょくちょく冷やかされるようになっていた。


 それも当然だろう。


 康太は遠慮もなく、堂々と怜亜に馴れ馴れしく接してくるのだから。


 ――しかも、かなりの頻度で褒めてくる。


「怜亜、今日も可愛いな」


「は?」


「いや、なんとなく」


「なんとなくって何!?」


 まるで息をするように自然に褒めてくる。


 普通なら勘違いしてもおかしくないレベルの好意。でも、それ以上の関係になろうとする気配は一切ない。


(……なんなの、この距離感)


 最初は気にしないようにしていた。


 だけど、次第にモヤモヤが募っていく。


 康太は怜亜と話すようになってから、女子の交友関係が広がった。


 最近は、クラスの女子たちからの評判も悪くない。むしろ、少し人気が出てきている。


 ……それなのに、どうして怜亜だけを特別扱いするのか。


 もし誰かが康太に告白したら?


 怜亜には、それを責める権利なんてない。


(なのに……なんで、こんなに気になるんだろう)


 最初は“都合がいい”と思っていた康太のどっちつかずな態度が、いつの間にか怜亜の心をかき乱すようになっていた。


 ――だからか、放課後の帰り道。


 怜亜は、思わずこんな言葉を口にしてしまった。


「ねえ、康太。私、好きな人ができたかも」

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