『見た相手を妹だと“錯覚”する』魔眼を授かった俺は、クラスメイトを”妹”にして溺愛する
うーた
1.『魔眼と妹』
高校生活初めての夏休みが明けた。
その拍子に、隣の席の
(拾うか……? いや、やめとこう)
怜亜はクラスでも有名な美少女だ。黒髪ショートボブの清楚な雰囲気、長いまつ毛に透き通るような素肌。男子からの人気は高いが、誰のアプローチも受け入れず、告白はすべて断っている。
『好きじゃないのに、付き合うなんてできない』
以前、彼女が友人にそう話しているのを聞いたことがある。
(俺が話しかけても、たぶん迷惑だろうな)
そう思って、手を伸ばしかけたのを引っ込める。怜亜はすぐに気づいて、何事もなかったかのように消しゴムを拾った。
(……妹だったら、こんなに遠慮しなくていいのにな)
心の奥に、そんな願望がふと浮かんだ。
康太の胸には、言葉にできない渇望があった。
「妹がほしい! 妹さえいれば、遠慮せずにとびっきりの愛情を注げるのに!」
下校中、誰もいない裏道で叫ぶ康太。あまりに切実な願いを口にした瞬間、風が吹き抜けた。
「ククク……少年よ、力がほしいか?」
「……え?」
黒いコートにとんがり帽子、銀髪を風になびかせた美女が立っていた。まるで童話の魔女そのもの。
「見た相手を妹にする
「本当か!? ぜひくれ!」
康太は即答した。妹がほしい。その一心だった。
「この魔眼にはルールがある。一度に妹にできるのはひとりだけ。そして、お前の意志で解除できる」
「なるほど……?」
「だが、正確には『見た相手を妹だと“錯覚”する』魔眼。お前自身の認識が変わるのだ」
「……よくわからんが、問題ない!」
魔女が康太の額に指を当てた瞬間――
「うっ、目が、目があああああ!!」
視界が真っ白に染まり、康太は倒れ込んだ。
翌朝。
(ん……? 妹の怜亜が隣の席か)
康太は登校すると、隣の席に座る怜亜を見た。目の奥がビリッと疼く。
(そうだよな、怜亜は俺の妹。だから気さくに話しかけてもいい。何を遠慮していたんだろう?)
――康太の常識が、書き換わった。
「怜亜、おはよう!」
「……え?」
驚いた怜亜をよそに、康太は自然に笑う。
「どうした? まだ眠いの?」
「え、いや……お、おはよう?」
(なんだか戸惑ってるな……まだ寝ぼけてるのか?)
「今日、英語あるよな。ペア学習よろしくな!」
「あ、うん……?」
怜亜は混乱したように康太を見た。
(……なんか様子が変だけど、ま、いいか! 兄妹なんだから、もっと仲良くしなきゃな!)
康太は満足げに微笑んだ。
◇
(……いやいや、康太くん、どう考えても変でしょ!?)
怜亜の心の中は疑問でいっぱいだった。
入学してから今まで、一度も話しかけてこなかったのに。むしろ、人と関わるのを避けているような雰囲気だったのに。
(それが、なんで今日になって急にフレンドリーになってるの!?)
しかも、距離感がおかしい。妙に親しげで遠慮がない。
そんな違和感を抱えたまま英語のペア学習を終え、放課後になった。困惑しながらも康太の相手をしていたら、友人の
「ちょっとちょっと、二人って仲良かったっけ?」
「え? いや、別に……」
「へぇ~?」
美香はじっと康太を観察すると、おもしろそうに目を輝かせる。
「君、怜亜とそんな仲だったっけ?」
「ん? 俺の妹だけど」
「……は?」
怜亜と美香の思考が一瞬止まる。
「……えっと、康太くん? それ、どういう……?」
「ん? だから、怜亜は俺の妹だぞ」
「え、ちょ、なに言ってんの!? いつから兄妹になった!?」
怜亜は慌ててツッコむが、康太の表情は至って真剣だった。
「いや、元々だろ?」
「元々じゃないから!」
康太の常識外れの物言いに、怜亜は混乱した。
――しかし、横で話を聞いていた美香はすでに面白がっていた。
「へぇ~、康太くんって意外とノリいいじゃん!」
「……え?」
「最初クール系かと思ってたけど、話してみたら案外おもしろいね!」
美香が早くも康太と打ち解けてしまったのを見て、怜亜は肩の力が抜けた。警戒して頑なな態度をとっていた自分がバカらしく思えてくる。
「……はぁ。もういいや」
力なくため息をつきながらも、怜亜は少しだけ笑った。
そんな怜亜の横顔を見て、康太も満足げに微笑む。
(……なんで、ついてくるの!?)
驚きの連続だった一日を終え、帰宅しようとした怜亜は、当たり前のように隣を歩く康太に思わず声をかけた。
「えっと……康太くんの家、こっちだっけ?」
「まぁ、途中までは一緒かな」
「そ、そうなんだ……」
変な一日はまだ続くらしい。
……でも、もしかして。
怜亜は嫌な予感を抱く。
(もしかして、私に気があるとか……?)
康太くんは今まで話しかけてきた男たちと雰囲気が違った。だけど、もしそうなら――はっきり断らなければならない。
だから、冷たく尋ねた。
「ねぇ、康太くん。……私のこと、好きなの?」
ぴたりと足が止まる。
怜亜は視線を逸らさず、康太の答えを待った。
――すると、康太はあまりにも軽い調子で答える。
「好きだよ? そりゃあ、可愛くて仕方ないからな」
「……っ!」
怜亜は一瞬、息を呑んだ。
(……やっぱり)
少し残念な気持ちになる。康太くんは今までの男たちとは違うと思ったのに――結局、同じだったんだ。
「ごめん。私、付き合うとか無理だから」
迷いなく拒絶する。怜亜は誰かとそういう関係になる気はない。今まで、散々嫌な思いをしてきたのだから。
――だけど、康太の反応は予想と違っていた。
「は? 付き合う……?」
康太は少し引き気味に首を傾げた。
「いや、まぁ……そういうマンガとかも見ないことはないけど、アブノーマルっていうか……そりゃ、そうだろ」
「……え?」
怜亜はぽかんと康太を見た。
(なに、この反応……?)
彼は、まるで恋愛感情の「好き」とは別の意味で答えたようだった。
次の瞬間――
「ったく、危ないぞ」
「――っ!」
康太が怜亜の肩を引き寄せる。
直後、猛スピードでカーブしてきた車が横を通り過ぎた。
「……あ、ありがとう」
怜亜の胸がドキドキする。
(……本当に、何考えてるのかわからない)
康太の気持ちが、一層わからなくなった。
「そうだ、週末に肉でも食べに行こうぜ」
「え、でも……」
「怜亜、今月誕生日だっただろ? 誕生月だと半額になるステーキがあるんだよ。身分証忘れるなよ!」
「……」
康太の押しに、怜亜は頷くしかなかった。
(……この人、本当にどういうつもりなんだろう)
◇
怜亜を送り届けたあと、康太は家への帰り道をスキップでもしそうな勢いで歩いていた。
「うおおおおお! 妹がいるって、なんて幸せなんだ!!」
夜の街に響くテンション爆上がりの声。
「俺の心のピースに足りなかったのは、間違いなく妹だ!!」
そう叫びながら、ルンルンで帰宅するのだった。
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