人食い鬼の伝説

 1年毎に、5人の少年少女が行方不明になる村がある。その村には、昔人食い鬼が居たと言われる谷が存在した。


 その谷の奥深くに、誰も知らない屋敷が建って居たのだ。それは、食人鬼の屋敷。



「坊さん、本当に大丈夫なのかよ ? 」

「案ずるな少年。鬼は近くに居ない。

 それで、君の友人たちの名はこれで合ってるかな ? 」


 僧侶は、短冊の様な紙の裏に名を書いたものを四枚。傍らで怯える少年に見せて確認した。


「……合ってるけど、どうすんのそれ ? 」

「ん ? これで、少年の友人たちをここに呼び出すんだよ」

「は ? 僧侶の癖に笑えない冗談辞めろよな……あいつらは、4人とも食われたんだ。

 俺の、目の前で…………っ」


 涙を目にいっぱい溜め、少年は下を向く。僧侶はそんな彼の頭を優しく撫で、諭すように言った。


「大丈夫だ。私を信じなさい。

 君も4人の友人も私が無事にかえしてあげるから」

「何言って……」

「みぃ~つけたぁあああ」

「ひっ ! 」


 低く不気味な声に振り返ると、骸骨を頭に被った細身の男が立って居た。手には大きな鉈を持っている。


「ありゃ、もう見つかってしまったか……」

「……子供の肉はさぁ、柔ぁらかくて旨いんだぁああ…………でも、坊主の肉は不味いから嫌いだ」

「それは良かった。私も君の様な不気味な御仁は苦手でね。

 ……少年」

「は、はい ! 」

「これを持って逃げなさい」


 少年は僧侶から先ほどの紙四枚を受け取った。


「そして、友達4人が最期に居た場所にそれぞれの名の書かれた紙を置き呼ぶんだ。


 ……全員集まったら、1階の正面玄関前に来なさい」

「で、でもっ ! 」

「逃がすかぁ ! 」


 骸骨男が鉈を振り上げ、物凄い勢いで少年に突進して来る。しかし、僧侶が少年の前に立ちそれを阻止した。

 何処にそんな力があったのか、骸骨男の振り下ろした鉈は一撃で僧侶の片腕を吹き飛ばす。


「いっ ! 」

「は、早く行きなさい ! ここは、私が食い止める ! 」

「ご、ごめんなさい ! 」


 大声で叫ぶと少年は一心不乱に走って逃げ出した。その後ろ姿を見届け、僧侶は骸骨男に向き直る。


「痛いじゃないか、急に切りかかるなんて酷いな」

「どぉして、邪魔をするぅ……」

「あのね。目の前で、人が襲われてたら助けるのが普通でしょ ? 

 少なくとも、……私はそう習って生きて来た」


 話しながら、僧侶は視界がぼやけるのを感じた。出血多量による貧血の症状だ。

 このままだと、命が危うい。だが、僧侶はそんな状況にも関わらず。


 骸骨男へと歩み寄る。


「大体……ね。「どうして ? 」 は、こっちのセリフだ……よ。

 どうして、君は人を殺して食べてるの ? 」

「……」

「ねぇ、どうし」


 全てが言い終わる前に、僧侶の身体は真っ二つに切られ絶命した。


「そんなの……旨いからに、決まってんだろうぉ ? 」


 表情は被っている骸骨の所為でわからないが、声色は笑ってる様だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る