第34話:美咲の告白
最初のポイントである那須岳の山頂を目指し、俺たちは歩き続けていた。
ここまでの道は、比較的穏やかで登山初心者の俺たちにも歩きやすかった。しかし、標高が上がるにつれて風は強まり、周囲の景色も徐々に変化していく。
「すごいですね……こんなに景色が開けてると、まるで空の上を歩いているみたい」
美咲が息を弾ませながら言う。彼女の視線の先には、広がる青空と、その下に連なる山々が見えた。眼下には雲海が広がり、まるで地上とは別世界のような光景が広がっている。
「那須岳は火山だからな。この辺りは木々が少なくて、岩が多いんだ」
田代が説明しながら足元の岩を注意深く踏みしめる。
「確かに、道がゴツゴツしてきたね。ここからが本番って感じかな?」
小泉が慎重に歩を進めながら言う。
俺たちは、ゆっくりと標高を上げていった。
「このまま山頂へ向かうぞ」
俺たちは慎重に足元を確かめながら、山頂へと続く登山道を進んでいった。
道は徐々に険しくなり、ゴツゴツとした岩場が続く。足元の石は不安定で、時折、登山道の脇には過去の噴火で形成された荒々しい地形が顔をのぞかせている。周囲には樹木はほとんどなく、風が強く吹き抜けるため、一歩一歩を慎重に進める必要があった。
そうして俺たちは、最初のポイントである那須岳の山頂に到達した。
標高1915メートルの頂からの景色は圧巻だった。
足元には火山岩が広がり、遠くには連なる山々と、眼下に広がる雲海が幻想的な風景を作り出している。
「すごいですね……ここからの眺め」
美咲が息を弾ませながら言う。
眼下には、さっきまでいたロープウェイ山頂駅が小さく見え、その先には硫黄鉱山跡と荒涼とした岩場が広がっている。その先には雲が流れ、時折、山の斜面に影を落としていた。
「これが活火山の地形か……まるで別世界みたいだね」
小泉がしみじみとつぶやく。
「あの辺りはお釜口と呼ばれるエリアだな。過去の噴火で形成された火口の跡が点在してる。今から向かう場所でもある」
山頂での絶景をしばらく楽しんだ俺たちは、次の目的地であるお釜口へと向かうことにした。登山道は相変わらずゴツゴツとした岩場が続き、足元に注意を払いながら進まなければならない。
「さて、ここから先は少し傾斜がきつくなるが、景色はさらに壮観になるぞ」
田代がそう言いながら前を進む。振り返ると、先ほどまでいた山頂が遠ざかり、見下ろせば雲海の広がる雄大な風景が広がっている。
「わぁ、すごい……。なんだか雲の上を歩いてるみたい」
美咲が感嘆の声を漏らす。
陽光が雲の隙間から差し込み、白と青のコントラストが幻想的な雰囲気を作り出していた。
「この辺りは、過去の噴火で形成された地形が色濃く残っているんだ。火口跡のすぐ近くまで行けるから、近づいたら硫黄の匂いがするかもしれないな」
田代の説明を聞きながら、俺たちはゆっくりと次の目的地へと歩を進めていく。
俺たちは、お釜口を過ぎ、硫黄鉱山跡の近くまでやってきた。
このあたりは過去の噴火によって形成された荒涼とした地形が広がっている。地面は黒く焦げたような火山岩で覆われ、ところどころに硫黄の匂いを放つ噴気孔が見え隠れしていた。
「うわ……すごい景色です」
森山が立ち止まり、目を見張る。
「こんな風に煙が立ち上ってるなんて、本当に火山って感じですね」
美咲が興味深そうに辺りを見回しながら言う。
「この硫黄鉱山跡は、昔採掘が行われていた場所だ。だが、今は完全に閉鎖されて、自然に戻りつつある」
田代がそう説明しながら足元を確かめる。
この付近では土がもろくなっている箇所があり、慎重に歩く必要があった。
俺たちは、火山の熱を感じるような独特の風景を抜け、再び登山道へと戻る。
峰の茶屋跡避難小屋を過ぎると、登山道はさらに狭くなり、両側には急な斜面が広がっている。
「風が強くなってきましたね……」
森山が帽子を押さえながら言う。
「このあたりは突風が吹くことがあるから、油断するなよ」
田代が注意を促す。
俺たちは身を屈めながら、一歩ずつ確実に足を進めていった。
◆
那須ロープウェイ山頂駅を出発してから二時間以上が経過していた。
俺たちは、途中の峰の茶屋跡避難小屋で小休憩を取り、そこで水分を補給して息を整えたあと、次の目的地である朝日岳を目指しているところだった。
高度が上がるにつれ、風が強まり、会話をするのも少し声を張らなければならないほどになっていた。
「だいぶ登ってきたな……でも、もう少しだ!」
田代が振り返り、励ますように声をかける。
皆は最後の力を振り絞るように、一歩ずつ確実に足を進めているが、正直なところ俺はなんの疲れも感じていなかった……。
そして、ついに朝日岳の肩まで到達した。
「あと少しで往路の最終ポイントである、朝日岳の山頂だな」
田代がそう言ったときだった
「きゃっ!」
岩場に足を取られた美咲がバランスを崩し、膝をつく。
「北沢さん! 大丈夫か?」
俺が駆け寄ると、美咲は苦笑しながら右足首をさすっていた。
「ちょっとひねっちゃったみたいです。歩けるとは思いますけど、少し痛みが……」
美咲の顔には申し訳なさそうな表情が浮かんでいた。
「無理をするな。下山は俺が背負ってやる」
「え、でも……」
「無理して歩いて悪化させるよりはいいだろう?」
田代も俺に同意するように頷いた。
「藤倉の言う通りだ。ここで無理をさせるのは良くない。峠の茶屋まで下りたら、車を呼んでリタイアしよう」
「そんな。後は戻るだけなのに……申し訳ありません」
美咲は申し訳なさそうに俯いた。
「気にすることないよ。こういうトラブルも研修の一部だからね」
小泉が優しく微笑んだ。
俺は美咲を背負い、山頂を諦めた俺たちは、ゆっくりと下山を始める。
「先輩……すみません。迷惑かけて」
「全然気にすることはない。むしろ北沢を背負えるなんて、俺にとっては約得でしかないぞ」
「ええ!? せ、先輩でもそんな冗談言うんですね?」
「はは。俺を何だと思ってるんだ?」
「もしかしたら、男色なのかも……って噂が社内であるんですよ」
「何だそれは!? 俺は普通に女の人が好きだぞ。もちろん、男性を好きな男性を否定するつもりはないがな」
「そうなんですね。じや、じゃあ、こうしたら少しはドキドキしてくれます?」
美咲は首に回した手に力を込めて、体を強く密着させる。
「うおっと! 危ないじゃないか! 下山中だぞ」
「そうですよね。すいません。で、あの……ドキドキしました?」
「さあな……」
美咲を背負いながら、俺はまったく疲れを感じていなかった。
「先輩の体力って本当にすごいですね。全然息が切れてません」
「北沢は軽いしな。全然苦にならん」
「先輩。やっぱり最近ちょっと変ですよね。先輩にそんな”運動神経抜群”みたいなイメージなかったです」
「こっそり鍛えてたのかも知れないじゃないか?」
「いいえ。私は先輩をいつも観察しているので、わかります。こんな急激に変わるのは、やっぱり変です」
「観察って……なんでだよ?」
「尊敬する先輩ですから……それに、好き……ですから」
「……」
田代のバーでの会話を思い出す。
『あいつ、お前に惚れてんだろ?』
あのとき田代が酒を片手に、軽く笑いながら言った言葉が頭をよぎる。
『だけど確実に好意を持ってるぜ』
そのときは深く考えなかったが、今になって彼の言葉が重くのしかかる。
「だから、その……観察、してたんです」
「そ、そうか……」
そんなことを言われても、俺にはどうしていいか分からなかった。
「先輩は私のこと……どう思ってますか?」
答えられない俺。
「好き……ですか?」
「良いヤツだと思ってるぞ」
卑怯な答え方をしているのは自覚している。
美咲を女として見ていない以上、好きかどうか分からない。
「そうじゃなくて、恋愛的な意味で……好きですか?」
どう答えるべきか悩む。
人間としては確かに好意的に見ている。
年齢的に離れすぎているので、可愛い妹のような感覚。
恋愛的な意味で、好きと言ったら嘘になるだろう。
──今は適当に誤魔化したい!
「と、というかな~。俺好きな人がいるんだよ。ブロンドの外人さんなんだ」
とっさにセシリアが思いついたので、使わせてもらった──ごめんセシリアさん 俺が外人属性だと知れば、諦めてくれるかもしれん。
「そ、そうなんですか! 先輩って、外人さんが好きなんですか!?」
美咲の驚く声を聞いたその瞬間、俺の視界が突然、白く塗り潰された。
重力が消えたような浮遊感に襲われ、足元がぐらりと揺らぐ。
次の瞬間、身体の芯から熱が走るような感覚が全身を駆け巡り、まるで空間そのものに飲み込まれていくようだった。
耳鳴りが鳴って、景色が歪む。
まるで霧に包まれたように周囲の音が消え、代わりに不思議な低音が響き渡る。気がつくと、俺は何もない闇の中を漂っていた。
まばゆい閃光が走ると同時に、足元に地面の感触が戻ってくる。
──転移した?
気づくと、広い平原。ちらりと横を見れば、街道のような場所。
そして、背中に重いものを感じたる。
「えええ!? ど、どこですかここ!?」
それは間違いなく、北沢美咲の声だった。
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