魔法学院の七誤解

チョコレ

序章 誤解の目覚め

第1話 終焉の目覚め

 枕の感触が絶妙にいい。掛け布団の重みがちょうどいい。世界は平和。つまり、俺はまだ寝ていていい。そういうことだ。


 ほんの少しだけ目を開ける。窓の外はまだ薄暗く、朝日が学園の塔をゆっくりと照らし始めたところだった。ひんやりとした空気を感じながら、ベッドの中の温もりに包まれる。


 このまま、あと五分……いや、もうちょっと……。


 ――その瞬間、微かな音が耳に入った。が、俺は聞かなかったことにする。世界の雑音がどうしたって? 俺には関係ない。俺は寝るんだ。


 ――が、異変はすぐに起こった。


 部屋の片隅で、カチリと音がした。薄暗がりの中、小さな黒い装置が赤く点滅している。


 ……いや、待て。俺の部屋に、こんなものあったか?


 気のせいだろう。考えたら負けだ。俺はただの一般学生、特別なものなんて何もない。寝るのが正義。


 しかし。


 

「対象の魔力波動、消失。封印状態、確認不能」


 冷たい機械音が室内に響いた。


 ……は? なんだこの声。俺の夢か? いや、俺はそんな小難しい夢を見るタイプじゃない。


「警戒レベル最高!封印異常発生!!!」


 ……はい???


 次の瞬間、装置が赤く点滅し、ブオォォォン! という警告音が鳴り響いた。壁に埋め込まれた魔法陣が発光し、空間がグニャリと歪む。


 ――ヤバい。


 これは夢じゃない。むしろ現実がどんどん悪化している。


 そして、さらなる最悪が訪れた。


 学院全体に響き渡る警報音。


「封印監視装置より通達。対象の魔力が確認できません。封印異常の可能性! 繰り返します、封印異常の可能性!」


 え、待って。俺、何もしてないんだけど???


 警報音は容赦なく鳴り響き、遠くから叫び声や、何かを蹴破るような音が聞こえてくる。これは……もしかして、大騒ぎになってるのでは?


 嫌な予感しかしない。ゆっくりと掛け布団をめくる。


 寝坊しただけだろ? なんでこんなことになってんの?


 ――扉に手をかけ、そっと開ける。


「ナイトロードの覚醒だぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ついに来たか!!」

「学院が滅びる前に備えろ!!!」

「ナイトロード様がついにその力を解放したのか……ッ!!」


 いやいやいや。


 俺、寝てただけだぞ???


 廊下は騒然。教師や生徒たちが右往左往しながら大騒ぎしている。魔法を展開する者、武器を構える者、泣きながら祈る者までいる。中には「ついに世界の均衡が崩れる……」とか震えているやつまでいた。


 おい、落ち着け。


 俺はまだ寝起きだ。夢だと思いたいが、どう考えても現実だ。確かに俺はちょっと寝坊したかもしれない。でも、寝坊しただけで世界が終わるなんてことがあってたまるか。


 ……なあ、どうしてこうなった??

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