第12話

 はぁ〜嫌なもんを見てしまった。久田ちゃんが変な所で泣いてたからゴミステーションに行くのに時間がかなり掛かった。おかげで俺の腕がパンパンだよ、筋肉痛になったら責任とってよね。


 久田ちゃんって泣く時いつもあの体勢だよね、三角座り蹲り。癖なのかな?それとも泣きやすいとかあるのかな?次から俺もやってみようかな?


 まぁとりあえず今回も原作通りに進みそうで助かるよ。




「話あるから来て」


 新色が今日やけに俺をチラチラ見てたから何か嫌われる事したのかな?俺も実はチラチラ見てたのがバレたのかな?とか思ってたら俺が1人になった瞬間を狙って話しかけてきた。


 やっぱり俺がチラチラ見てたのがキモかったからお怒りなのだ。違うな、俺の愛が漏れ出してたのがキモかったんだ。愛と情報と液体は漏れ出しちゃうから注意しないとね。


 人気がない所に呼び出されたけど殴られないよね?新色ってキモすぎだからっていう理由で人を殴らないよね?

 

「こんな人気の無い所に呼び出してどうしたの?あ、もしかして告白だったりする?」


「水野は気づいてるよね?」


 え、何が?新色は俺は何かに気付いてるように見えるようだ。それより俺の冗談をスルーしないでくれよ、結構恥ずかしいからな。


「何の話かな?気づいてる?世界の真理とか?地球の誕生とか?」


 水野は気づいてるよね?って事から察するに新色は何かに気付いてるようだ。


「ふざけないで」


 新色の顔から真剣な話なのは伝わってくるからふざけるのは違ったようだ。でも、これがいつもの水野祥太だから仕方ない。


「久田ちゃんの事」


 一瞬顔を歪めそうになったけど何とか耐えた。いや、もしかしたら新色から見たら歪んでるかもしれない。歪んでるのがバレたら俺が久田ちゃんの事を気づいてるのが悟られる。


「ん?何の事?」


 いつもの俺だったら慌ててたかもしれないけど、何度も原作から逸れたのを戻した男だぞ。こんなのではもう慌てない。


「…」


 お前本当は気づいてるんだろ?みたいな目で見られてるけど俺は変わらず知らないふりで押し切る。頼むから余計な事をしないでくれ、本当に大人しくしててくれ。


 ていうか、これも原作から逸れた行動じゃないか?原作の中に新色が早乙女に相談するシーンが無い。なぜかは知らないけど今回は俺に相談してるけど。いや、原作でも水野に相談してるのか?…無いな。


 いや、まだ私久田ちゃんとお友達になりたい。っていう相談なのかもしれない。だったら俺に相談する理由が分かる。


「ハルカちゃんがどうしたの?」


「多分嫌がらせされてる」


 かぁ〜。気づいてたんかーい。心の中で頭を抱える。もー勘弁してくれよ〜気づくなよ〜自我出してくるなよ〜。あれ、俺って推しにこんな事思うような奴だったけ?


「え?そうかな?サラサちゃんの見間違いじゃない?」


 新色には悪いけど俺は徹底して知らないふりをする。隙を見せるなよ、絶対に知らないで突き通せ。


「ね?本当は気づいてるんでしょ?」


 ドキッと心臓は素直に驚いてるけど顔には出さない。内心ヒヤヒヤしてるけどポーカーフェイスで騙す。


 どんだけ勘が鋭いんだよ。でも、気づいてるなんて口が裂けても言えない。


「ん?何が?」


 もう頼むからこれ以上余計な行動はしないでくれ。ここは知らないふりした方がみんなが幸せな未来になるんだから。

 

「…」


 だからそんな顔しないでくれ。


「もう知らないなら知らないでいいから、2人で何とかしよ」


「何とか、とは」


「久田ちゃんへの嫌がらせを止めよ」


 ふぅ〜…殺せ。心を殺せ。俺は親友ポジだ、主人公の早乙女の親友ポジだ。新色が勇気を出して俺に相談して来たけどその勇気を無駄にしろ。お前がやれる事なんか無い。


「大丈夫だよ、先生がどうにかしてくれるよ。そんなの俺たちがやる事じゃない」


「でも!」


 ごめん、言わせないよ。


「そもそもハルカちゃんが望んでる事なの?ハルカちゃんに頼まれたの?じゃあそれはただお節介を焼いてるだけだよ?それって自己満じゃないの?」


 最低だ。最低クソ野郎だ。新色が提案したのは善良な事なはずなのにあたかも悪い事をしようとしてるように言ってしまった。


 …どうして今なんだよ。後じゃダメなのか?文化祭になったら解決するんだよ、だから今は黙ってようぜ。ここで見て見ぬふりしても誰も責めないからさ。


 …どうして俺の時にいてくれなかったんだよ。


「どうしてそんな事言うの?」


「あ、ごめんごめん。変なこと言っちゃったね」


 新色が泣きそうな顔になってるのを見て我に返った。


「とりあえずハルカちゃんの事は見なかった事にしよう。それに多分…、いや、サラサちゃんの見間違いだと思うよ俺は」


「見間違いじゃない!」


「"絶対に"サラサちゃんの勘違いだよ」


 ここまで言えば自分を疑って変なことはしないはずだ。


 だと思ったけどまだ新色は俺の言葉に納得してないようだ。


「あったとして何か策でもあるの?」


「…」


 無いから俺を頼ってんだろうが。


「ハルカちゃんは助けてって言ったの?」


「…」


 言うわけねぇだろ。


「ね?だったらもう今回は何も見てないし、何も起こってない。そうでしょ?」


「…」


 何で納得してくれねぇんだよ、俺に従ったけば良い未来が待ってるのに。


「絶対に見違いじゃないし、絶対に嫌がらせが起こってる」


 …こいつ。


「証拠も無いのにそんな事言っちゃダメだよ」


 証拠とかしょうもない言葉使うなよ。普段だったらサラサちゃんの言葉は何でも信じてるよ。


「それに」


「じゃあ何でそんな顔するの!」


「え…」


 顔?そんな変な顔してたのか?おいー誰か俺の顔に落書きしたのか?だったらちゃんと言ってくれよー。


「久田ちゃん見てた時も今もずっと悔しそうな顔してるよ!」


「悔しそう?」


 悔しい?誰が?俺が?誰に対して?


「何で気づかないの?本当はどうにかしてあげたいって思ってるんでしょ?」


 違う、俺がそんな変な考えが思い浮かぶわけがない。それをしてしまうとこれまで頑張ってきたのを否定してしまう事になる。


 ここが正念場だな。


「思わない。思わないよ」


「そう…なんだ」


「そうだよ」


「私の勘違いだったみたい。ごめん」


 ふぅーやっと気づいてくれた。だから俺は最初から勘違いだって言ったのに、やっと俺の事を信じてくれるようになったんだね。

 

「全然大丈夫だよ。また困ったことがあったら俺に言ってね。いつでも相談に乗るからね」


 気持ちわりぃ、どの口が言ってんだよ。本当に嘘ばっかつく口だな。福笑いみたいに取り外し可能にしてくれよ。


「ありがとう」


 こんなクソみたいな奴にありがとうって言える新色は素晴らしい人間だ。


「じゃあ、また何かあったら教えてね」


「うん」


 これで良いんだよ、これで。何も悪くない。これが正解なんだ。俺はおばあちゃんに会うためだけに転生してきたんだ。だからこれが俺にとって正解の行動なんだ。


 いや、俺だけじゃない、皆んなにとってもこれが正解なんだ。だって文化祭でちゃんと解決するんだから今騒いだってしょうがないじゃん。今より余計に酷くなる可能性だって十分にあるのに今動く必要がない。


 そうやって俺の行動がどれだけ正しいかを自分に説く。


 俺はおばあちゃんに会うんだ。会って謝るんだ。学校に行かなかった事、おばあちゃんの料理を捨てた事、おばあちゃんの言葉を無視した事、おばあちゃんと向き合わなかった事、全部、全部謝りたい。


 おばあちゃんが目の前だと感謝するのは照れ臭いけど今なら伝えれる気がする。


 だから、俺は原作通りに行かせてもらう。















 次の日、新色もいじめのターゲットにされていた。

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