第1話

 おじちゃんを手伝ってたらすっかり遅刻ギリギリの時間までになってた。やっぱり良いことした後は気持ちがいいわ。


 ガラガラッ


「ギリギリセーフ!」


 野球の審判のように両手を広げてセーフのジェスチャーをしながら教室に入る。


「ギリギリアウトだ馬鹿。さっさと席に座れ」


「はーい」


 余裕でチャイムが鳴った後に教室に入って来たから全然アウトだ。これはビデオ判定しなくても分かる。


「はい、静かにしろ。水野は早く席に座れ」


 席に向かう途中でクラスの奴らに話しかけられたから返していったらまた怒られた。


「来週オリエンテーション合宿を行う」


 キタ、久田ちゃんのメインイベント。


「先生」


 クラスの1人が手を挙げて質問をする。


「どうして来週なんですか?もう5月ですよ?もうみんなの名前と顔覚えてますよ」


 オリエンテーション合宿っていえばまだクラスの人たちを知らないからこの合宿で仲良くなりましょう。みたいな意味があると思う。


 なのに5月に行われるのはあまり意味が無い。だってもう仲良くなっちゃってるもん。もう仲良いグループも固まってるし。


「学校の都合だ」


 先生はそう言ってるけどこれは学校の都合じゃなくてゲームの都合だ。新色のイベント後にオリエンテーション合宿をやりたいならこの時期になってくる。


 だから、来年以降はちゃんと入学してすぐにオリエンテーション合宿が行われるだろう。


「とりあえず合宿やるから。あと、4人以上6人以下のグループ作っておけ」


 出た、グループを作るやつ。俺これ大っ嫌いだったなぁ。適当に先生が決めてくれよってずっと思ってたもん。俺はずっと「えー、あ、入る?」って気を遣われるか、無理やり組まされるか、休むかの三択だったなぁ。辛かったなぁ。事前に分かってるやつは休めるんだけど、突然のやつは休めないから地獄なんだよ。


 だけど!今回は俺には親友(仮)もいるし、友達みたいな奴らがいるからあの時みたいな思いはもうしない。


 そもそも原作では俺と早乙女と新色と久田ちゃんが一緒のグループになるから心配の必要がない。


 ちょっと怖いけど新色に断られたらどうしよう、俺が嫌い過ぎて断られる可能性だってもちろんある。だけど、初めての友達の早乙女がいるからいけると信じてる。


「組めなかった奴はこっちが適当に振り分けとくからな」


 痛い、頭が痛い。


 何で先生は友達がいない奴の気持ちが分からないんだ?そんな事したら仲良いグループに1人浮いてこいつ邪魔だな、みたいな目でずっと見られるんだぞ。


 それに先生ってみんな、友達が欲しかったら自分から話しかければ良いじゃん、って言うよな?出来ないからこっちが困ってるのによ。


「大丈夫?」


 あまりに先生が酷い事を言ったせいで俺は頭を抱えてしまってた。それを心配して隣の席の委員長が声をかけてくれた。


 あなたは天使、いや、女神様だよ。あの女神よりもずっと女神様だよ委員長は。


「大丈夫大丈夫!」


 親指を立てて俺は大丈夫だと合図する。委員長に心配させるくらいなら頭なんか痛くなるなよ。


「昨日まで熱あったんでしょ?辛かったらいつでも言ってね」


「うん」


 そこまで心配させたら申し訳なくなるよ。あと、すごく優しくされたら照れちゃうね、もう委員長の目が見れないよ。

 

 



「よぉ親友!」


 俺はいつものように後ろから急に早乙女の肩を組む。最近こいつの肩は組みやすい事に気づいた。


「もちろんお前は俺と一緒のグループだよな?」


 あ、ちなみに言っとくけどこれは俺が言いたくて言ってるんじゃなくてゲームに出てきたテキストを覚えてる範囲で言ってるからな。俺の中にそんな海外のノリは存在しない。


「え〜またお前と一緒なのかよ〜」


「何だよそれ〜本当はめちゃくちゃ嬉しいくせによぉ」


「嬉しくねぇよ」


 そんな事言って嬉しそうな早乙女は本当に水野を親友だと思ってるんだろうな。ごめんな、中身がヒキニートで。


「で、あと何人誘う?そもそも誰誘うよ?」


 もう決まってるけど原作通りに進まないとな。


 ガン見したらバレるからチラッとだけ新色を見る。今日も相変わらず可愛くて助かる。ずっとビジュ爆発してる。


「ん〜俺は誰でも良いけど…」


 そんな事言っちゃって〜決まってるくせに〜。


「じゃあ遠山にしよっか」


「おーそうだ…ん?」


 いや、誰?クラスの奴なのは知ってるけど、誰?新色じゃないの?


 おいおいおいおい!また原作に無いことしやがってこの鈍感クソ主人公はよ!


「あーやっぱダメダメそいつキモイから」


「おい!」


 遠くから遠山のツッコミが届く。


「じゃあ片桐か?」


 だからさぁ。


「あーそいつもキモイからダメ」


「キモくねぇだろ!」


 また遠くから片桐のツッコミが届く。


「じゃあ山田は?」


 こいつマジか?


「そいつはもっとキモイからダメ」


「俺が1番キモいの?」


 山田はツッコミというよりかは困惑してる。


 こいつは何で新色を選ばないんだ?俺聞いてたんだからね、初めての友達になってくださいって。なのにこいつにとっての友達はそんなものなの?

 

 ちょっと待ってくれよ。また原作通りにいかないの?また無理やり原作に戻さないといけないの?


 こうなったら早乙女は頼りない。俺がなんとか原作通りに進めれるように矯正しないと。


「俺が誘っても良いか?」


「ん?誘いたい奴でもいるん?」


 ムカつく顔しやがって。


「俺は…」


 ここで言葉が止まる。


 ここは俺が誘っても良いいんだろうか?これは早乙女に託した方が良いんだろうか?まぁ無難に早乙女か。


「俺はサラサちゃんと一緒が良いからお前誘って来い」


「俺!?お前が一緒が良いならお前が行ってこいよ」


「お前の方が仲良いからお前に決まってんだろ。ほら、行って来い」


 早乙女の背を押して新色の所へ向かわせる。


 はぁ〜どうしてちょっとだけズレる事が起きるんだ?久田ちゃんの時はちゃんとお前は来てたじゃねぇか。


「なぁ新色」


「なに?」


「オリエンテーション合宿のグループなんだけどさぁ」


「うん」


 もうそこまで言ったら分かる事だけど、ちゃんと最後まで言ってほしいもんな。


「俺たちと同じグループになってほしいんだけど、どう?」

 

 ここは原作通りのセリフだからもう俺には何も分からなくなってきた。せめてどっちかにしてくれよ、もうどっちがどっちか頭が追いつかない。

 

 いや、もう普通に原作通り進んでくれ。頼むから。


「…」


 ?


 早乙女の誘いになぜか答えない。ここは原作通りじゃない。原作だったらスッと答えるはずなのに。何ならちょっと前のめりで「良いよ」って答えるのに。


 黙ったと思ったら次は俺の方を見てきた。


「そのグループに水野はいる?」


 俺!?なぜに?


 だからそれも原作通りじゃないんだって!


 …なるほど。俺の事が嫌い過ぎて同じグループなのが嫌なのか、さすがに俺の好感度を下げ過ぎたようだ。


 ちょっと悲しいな、同じグループですら俺と一緒にいるのが嫌なのか。推しに嫌われるのは辛いよ。俺は今日何回辛い思いをすればいいんだよ。


「うん、いるよ」


 スゥー、どうしよう?入らなかったらまた原作が変わってしまう。ここは原作通りに進めたいのに。


 まぁ俺が抜ければいいか、俺が抜けてもそこまで変わらないと思う。重要なのは早乙女と新色と久田ちゃんが同じグループになる事だ。だったら俺が抜けて目立たないモブでもいれて、俺がサポートすればギリいけるかもしれない。


「じゃあ入ろっかな」


「お、じゃああと1人だな」


 



 …?


 じゃあ入ろっかな?…いや、どういう事?


 新色は俺の事が嫌いまではいかないけど好きではない、だからグループに俺がいるか聞いた。ここまでは理解出来た。俺がいる事を伝えて、じゃあ入ろっかな。



 







 …いや、どういう事?

 

 

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