04 洗って

 今日はのんびりしようと思っていたら、バイトの人手が足りないと呼び出された。僕のバイト先はファミレス。閉店作業まですることになった。ドリンクバーを洗浄し、やっとおしまい。すっかりくたびれて帰宅すると、兄がソファで眠りこけていた。


「兄さん、こんなところで寝てたら風邪ひくよ」

「ううーん……」


 声かけはしたのだからもういいだろう。あとは自己責任だ。僕は風呂に入ってダブルベットを占領して寝た。

 ところが。

 お尻に硬い物が何度も振り下ろされて目が覚めた。


「痛ぁい……」

「瞬! 起きろ瞬!」


 兄はリモコンを持っていて、それで僕の可愛いお尻を殴打していたようだった。時計を見ると二時。これで何回目だ。四回目か。


「兄さん、何なのさ! こんなに夜遅くに!」

「すぐにしてほしいことがある。リビングに来い」

「ふぇぇ……」


 のそのそ兄についてリビングへ行ったが、特に変わったことはなかった。


「瞬、臭うだろ?」

「えっと……何が?」


 スンスンとかいでみるが、僕も兄もリビングでタバコを吸う悪い癖があるのでヤニの香りしかしない。首を傾げると、兄がエアコンを指差した。


「あれから臭う! ここに越してきてからフィルター掃除してないんだよな。瞬、やってくれ」

「うう……また後にしてよね。それに気になるんなら兄さんがすればいいじゃないか」

「おい、ここの家賃は俺が払ってるんだぞ。エアコンだって俺が買った。瞬も少しくらいはこの家に貢献しろ」

「はぁ……わかったってば」


 エアコンのフィルターを取り外すと、確かに少しホコリっぽい臭いがした。洗面所に行き、よく洗う。こういう作業はバイトで慣れているからそんなに難しい作業ではない。洗っている内に、兄の理論は間違っている気がしてきた。エアコンを買ったのが兄ならば、責任を持つのも兄ではないだろうか。それを言い返してやろう、とフィルターを取り付けた後に寝室に踏み込むと、やっぱり兄は寝ていた。


「兄さん! 言いたいことあるんだけど! 兄さんっ!」


 お返しとばかりにリモコンで兄の引き締まったお尻をガンガン叩くも反応なし。起きてからにしよう、と僕も眠った。

 翌朝起きると兄はベッドにはいなくて、リビングでぷかぷかタバコを吸っていた。僕は自分の言い分を披露しようと口を開きかけたのだが、兄の方が早かった。


「瞬! エアコンありがとうな。さすが瞬は頼りになるよ」

「あっ……えっと……」

「いやぁ、一人じゃなくて良かった。こんなに心強い弟が一緒で助かるよ」

「ん……そっかぁ」


 そして、僕の分の目玉焼きを作っていてくれたので、それを頂いている内にとうとう言い出すタイミングを失ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る