第8話

夜会で見た彼が頭にちらついて喉が引き攣り、声が出ない。


恐怖で小さく震えているティーナの行動を赦したユーグが、蜂蜜のようにあまい声を出して問いかけた。



「ねえ、ティー。気に入ってくれたかな?僕が用意したティー専用の牢屋だよ」


「え…?」


「ティーの好きな色を揃えたり、クイーズ家のティーの部屋に寄せてみたんだ。是非、感想が聞きたいな」



その前に手首に付いている手錠について詳しく聞きたかったが、逆らってはいけない気がしてベッドの上から見える限りでさっと視線を走らせる。



確かに慣れ親しんだ自分の部屋によく似ていた。


しかし、ここが自分の部屋ではないことは、はっきりと分かる。



目に入った一品一品の家具はどれも高級で、壁に飾ってある有名な絵画は相当な額が予想される。


いくら公爵令嬢といっても使うのに躊躇してしまいそうなものばかりが揃っていて、牢屋というにはあまりにも豪華。


だが、楽しそうにティーナの反応を待っているユーグは間違いなく、ここを牢屋と言った。



「どうかな?」


「は、はい。とても素敵だと思います…」



こんな呑気に話している場合じゃないのに、またユーグの気に入らない態度を取ると冷酷な彼が顔を出すのではないかと思うと恐ろしくて、ぎこちなく首を縦に振る。



ここは一体どこなのだろう。


窓がなく、外の様子も分からない。


貴族が罪を犯した時に入る牢屋は一般的なものと比べて豪華だと聞いていたが、さすがにここまでではないと断言が出来る。



つまり、ここは牢屋であって、牢屋ではない。

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