第7話

・◇・◇・◇・



ティーナは夜会から無理矢理連れ出された後は当然、抵抗した。


しかし、ティーナが暴れることを見越したように馬車に乗せられるとハンカチを口に当てられて、何かの薬を嗅がされてしまい、徐々に身体から力が抜けていく。


闇にゆっくりと落ちていく中で瞼の裏に過ぎったのは、ユーグと伯爵令嬢が肩を並べて国民達の前に立っている姿だった。



「……ん、」


「ティー?起きた?」


「……ユー、グ、さま?」



重い瞼を開けた先にいたのは、目が合って嬉しそうに笑うユーグ・トズベルン。



ティーナの顔を覗き込んでいた彼は身体を起こしてティーナの右側のベッドの端に腰をかけた。


そしてベッドに寝かされているティーナの頬に手を伸ばして、するりと愛おしそうに白い肌をなぞる。




その瞬間、夜会でユーグに裏切られたことが頭を過ぎってパッと彼の手を叩いた。


距離を取るように慌てて上半身を起こしてベッドボードまで身体を引き上げると右手首に違和感を覚え、予想外の音が耳に届く。



シャランと金属が擦れ合う聞きなれない音。


黒いそれは隙間なくティーナの右手首に装着されていて、ベッドの脚の方に長く伸びている。



ティーナが戸惑っているとユーグがくすりと笑い、離れた距離を詰めるように座る場所を変えた。


いつもより近い距離に警戒心を募らせながらユーグの様子を窺う。



「びっくりして僕の手を払いのけちゃったの?仕方ない子だなあ、ティーナは」


「っ、」



ティーナがユーグの手を拒んだのは婚約してから初めてのことで、その行為が彼を怒らせたことに気付いた。


笑っているはずのユーグの目は仄暗く、次はないからねと言われているような気がする。

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