第7話
ナイトは視界を奪ったエリスの小さな手を離し、彼女の腰に手を回した。
青年に突き立てていた剣を今度は周りを囲む兵士達に向ける。
沢山の剣が向けられているにも関わらず全く怯む様子のないナイトに、周りの騎士達の方が動揺を隠せない。
彼はこの国で最も剣の腕が良い最強の騎士。何人でナイトに挑もうと、彼は守るもののために剣を振るう。そのことをよく知る兵士達の中に己の死を覚悟してでもナイトに挑もうとする勇気のある者はいなかった。
もし、ナイトを止める瞬間があるとすればあの僅かな時間だけだった。
ナイトの視界をエリスが奪った、その一時。
ナイトを捕らえることが出来なかったことが兵士達の、この国の、運命を決めることになる。
「王に伝えろ。勲章はいらない。代わりに私とエリスが住む牢屋を用意しろ」
ナイトは自ら無期限の罪を、認めた。
その日、とある国は英雄騎士「ナイト」を失う。
王はナイトのこれまでの功績を認め、そしていつ反逆してくるか分からないナイトに恐れを抱いていた。だから減刑するとナイトに申し入れたがそれをナイトは許さなかった。
もし敵が攻めて来た時に逃げ込むために地下深くにひっそりと作らせていた王のための強固な部屋を仕方なくナイトのために明け渡した。食にも困らないように国民が王に納める取り決めがされていた貢物の一部を回した。
王にとって何よりも一番大切なのは、己の命。
ナイトを鎮めるため一人の女性が生贄となろうが、ナイトが大人しくしているのならその女がどうなろうが関係なかった。
剣を向けられ、姉を奪われた青年はあの時何も出来なかったことを何度も悔やんだ。
姉を取り戻すためにナイトとの決闘を何度も何度も王へと申し入れたがお前が勝てるわけないと罵られ、これ以上騒ぎを大きくするのであれば罰に処すと脅された。
それでもナイトへ牙を向けることを諦めなかった青年は、薄暗くとても汚れた牢獄へと捕まった。
青年は死ぬその時さえも、実の姉を想ってナイトを恨み続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます