第20話 未来予想図(美織side)
――昔から、男の子っていう生き物が苦手だった。
男の子はみんな乱暴で、声が大きくて、下品なことを言って私をからかったりする。泣いてもやめてくれないし、むしろもっと興奮して、周りを巻き込んで騒ぎ立てる。
そういうところが苦手だった。
もっとも、そんなものは幼少期の偏った記憶に過ぎなくて、そういう特徴に当てはまらない男の子がいることも、頭の中では理解していた。
そして、そういう素敵な男の子と運命的な出会いを果たすことを、心のどこかで期待していた。
だけど、白馬の王子様というのは、そう簡単には現れてくれないものだ。
現実は、少女漫画のようにカッコイイ男の子なんてそうそういないし、世界中のどこかにいたとしたって、そんな人と偶然出会える確率って、一体どのくらいのものなんだろう。
そんなことばかり考えていたら、男の子と手も繋いだことがないまま、高校生になっていた。
「ひ、姫巫女様……! 好きです、付き合ってください」
「……お断りするわ」
学校では、毎日のように、男の子からの愛の告白を受けた。
そりゃあもう、うんざりしてしまうほど頻繁に。
由来は不明だけれど、「姫巫女様」なんていう大層なあだ名をつけられ、勝手に神聖な存在として扱われていた。はっきり言って、迷惑な話だった。
「ど、どうして? 俺、本当に神楽坂さんのこと……!」
「知っているのよ。あなたたちが教室や廊下で、私の……その、身体的特徴のこととかを、大声で喋っていること」
「……! それは……」
「はしたない。不潔だわ……。私、そういうの本当に嫌いなの」
人より少し大きい胸や身長のことなど、たとえ褒めているようなニュアンスであったとしても、面白おかしく話題にされるのはいい気がしない。
私がそう説明すると、告白してきた男子はがっくりと肩を落として、か細い声で謝罪を口にした。これで、諦めもつくだろう。
私はわかりやすく落胆する男子に背を向け、その場を後にする。
「……くだらないわ」
吐き捨てるように呟く。
――男の子って、みんなこうなのかしら。
だけど、ある男の子との出会いで、私の人生は180度変わった。
「あッ、す、すまん!!」
――もちろん、男の子とキスをするのは、初めてのことだった。
その人は、元いた家政婦さんの代わりとしてうちにやってきたアルバイトの男の子で、一応、同じクラスだから、存在は認識していた。
だけど、あの出来事が起こるまでは、特別感のようなものを感じることはなかった。他の男の子と同じ、下品で、不潔なヤツに違いないって、よく知りもしないクセに、勝手に決めつけていたのだ。
……だったのに。
唇が重なった瞬間、まるで電流が走るような衝撃を受けた。
ああ、この人が私の、運命の人なのだと。
昔読んだ本に、女の子は初めてキスをした男の子に永遠の愛を誓うものなんだと、そんなようなことが書いてあった。
だから、私は――。
「三崎くん。私と……結婚してください」
自然と、そう声に出していた。
それから、色んなことがあった。
彼は毎日放課後にうちに訪れて、色々な家事をやってくれた。はじめこそ反発したものの、彼は私が感嘆するほどの熱心な働きぶりを見せてくれた。福本さんに勝るとも劣らない手際の良さだった。
スキンシップもたくさんした。その度に、照れて抵抗する彼が可愛いかった。
夜、怖い夢を見て無我夢中で連絡をしてしまったこともあった。遅い時間なのに、彼はすぐに飛んできてくれて、私を抱きしめてくれた。
「……ふふ」
今まであった出来事を、一つずつ思い出しながら鏡を見る。きらりと輝くシルバーのネックレスは、他でもない彼からもらったものだ。
「おい、さっきから何鏡見てニヤニヤしてんだよ。いくら顔がいいからって」
「違うわよ。見ていたのは自分の顔じゃなくて、ネックレスのほう」
「……ふーん」
「ありがとう。本当に気に入っているのよ、これ」
「……あっそ。別に、給料の使い道ないから、適当に買っただけだし」
ほら、彼ってば本当に照れ屋で、素直じゃない。誤魔化すように頭を掻いているけれど、口角が少しふにゃっとして、喜んでいるのが丸わかりじゃない。
まあ、そんなところが可愛いんだけど。
「三崎くん。そういうことだから、入籍の日はいつにしましょうか?」
「え、何がそういうこと? え、全然脈絡なくない? 怖いんだけど」
「あら、これって婚約指輪の代わりでしょう? この間のは、あなたなりのプロポーズだと解釈したのだけど」
「ちっげーよ!! その解釈何一つあってねえからな!」
「そう、残念」
三崎くんは声を荒らげて否定するけれど、私はそれが、なんだか心地よかった。
二人の距離が少しずつ近づいていることは、誰が見たって明白だ。私はこの一か月で三崎くんのいいところをたくさん知ったし、彼もきっと、同じように思ってくれてると信じている。
私はドレッサーの前から立ち上がり、そっと彼の耳元に唇を寄せた。
「……大好きよ、未来の旦那様♡」
もう、私の思い描く未来予想図には、あなたの存在は必要不可欠なの。
だから、ずっとずっと、あなたの傍にいさせてね。
そんな思いで、私は赤くなる三崎くんの横顔を、はにかみながら見つめていた。
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あとがき
こちらのお話で、第一章は終了となります。
次の第二章から、姫巫女様のライバル(!)も登場する予定ですので、引き続き楽しんでいただけるよう、頑張ります!
もしこの作品を好きだと思っていただけたら、ぜひ、☆でのご評価のほど、よろしくお願いいたします……!!
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