五章 13

「それよりお願いしたいことが」

「なんだ」

 場面はメイの母親を連れて―――が彼女に部屋に向かった時に巻き戻る。

「メイのことについてです」

「……で?」

「あの子をことを任せたいんです」

 あからさまではあったから、そのことを勘付いていた―――は特段驚くことはなかった。ただ、ごく単純に疑問が浮かび上がってきた。

「なんで、それを願うんだ?」

「あの子は自慢の子です。でも、まだ若くて未熟です。それこそ私のために犯罪に手を染めてしまうくらいには」

「……そうだな」

 その時にした曖昧な、そして何かを憂うような表情を見て、―――はある出来事をフラッシュバックしていた。

(ラ――。私は――たのしあ――を、たとえ――――どんなく――――に行こうとも、ね――て)

「ふふふ――」

「……?」

「すみません。でも、だからこそあなたに任せたいんです。多分、似ているんでしょう?」

 その言葉は―――の核心をつく発言だった。だから、―――の顔は非常に苦々しいものになっていたし、予想よりも激しいリアクションが出てきたことに少しメイの母親も動揺をしていたのだ。

「ごめんなさい。少しからからかいすぎてしまいました」

「偶然だろ。あんま気にすることでもない。まあ、俺に任せる理由はわかった」

「どうでしょう? かなり無理を言ってしまったのですが……」

「――はぁ、わかったよ。あいつがもう一回スリをしたら、ルーナがなんていうか分からないからな」

「ありがとうございます」

 メイの母親の穏やかな顔が見えた。

「とまあ、こんな感じのことを話してな」

「それ、聞いたことないんですが?」

 軽く過去回想を聞いたルミエルが―――の主人である自分がそのことを聞いていないことに少し腹を立てていいた。

「そもそも俺みたいな違法ギリギリならともかく、正式に雇い入れるなら、お前じゃなくてマクロンに行ったほうがいいに決まってるだろ」

 そもそも、―――はその異常性をルミエルに買われた犯罪者で、一応社会復帰的な一面も合わせてミンフェル家にいることができているが、メイに関して言えば、スリをやってはいるもののそれを被害者二人が何も言わなかったし、それをそもそも何も知らないルミエルに伝えるくらいなら、ある程度状況を理解できていて、メイの雇い主になるマクロンに直接言った方が楽で効率的であった。

「納得はできますが、それにしても人をプレゼント扱いはいかがなものかと」

「まあ、単純に言えばサプライズに近いしな。最初は従者記念で済まそうとしていたんだが」

「へえ……?」

 その不用意な一言で明らかに様子の変わったルミエルであったが、そのことに気が付きながらもあえて無視を続ける―――。そして周りはまた発生したルミエルからの圧に対して冷や汗を流す事態になっていた。

「それじゃあ、味気ないからな。少しでもお前の驚いた姿を見たかったし。マクロンに秘匿にさせてもらっていた」

「そうですか……」

 いまだに機嫌が立ち直らないルミエルに対して、思ったのと少し違う感じを感じ始めた―――。

「ルミエル!」

 会場に声が響き渡る。圧に塗れていた会場は一瞬で正常になって、声を発していた人物に注目が集まった。

「ルミエル、これはあなたを祝うパーティーです。彼にも悪い部分がありましたが、あなたが率先してパーティーを暗くするとはどういうことですか」

 声をかけたのはサマランであった。妙なところで押しの強い人物だが、ルミエルのパーティーでルミエルと叱りつけるということをやってのけたのだ。特に物理の方面に格段に強いルミエルに対して。

「……わかりました」

「まあ、メイの準備とかしていたが、遅れたのは俺の責任だからな。すまんな」

「ええ、それでいいんですよ」

 半分納得していないような表情をしているルミエルに自らの非を認め、少し着眼点のズレた場所に誤った―――を見て、サマランはうんうんと頷いていた。

「なあ、相手にされていないんだが、いいのか?」

「ルミエル、返事しろ」

「はあ……わかりました。これからよろしくお願いしますね。メイちゃん」

「よろしくな、ルミエル様」

 ほとほとに疲れながら答えたルミエルを置いておいて、メイはこうしてミンフェル家の一員となったのだ。

*  *  *  *  *

「殺し屋がルミエルを襲ってきた。考えられるのは二つ。俺を知らない奴が依頼を出しているか。それとも、俺がダメだったということを知りつつも依頼を出し続ける奴――ウィリアム・アハトが懲りていないかだな。」

 俺は静まり返った部屋で思案していた。

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