第6話
「……なんだよ」
「パワハラですよ、さっきの。いや、暴行ですかね?」
赤くなった額をわざとらしく摩る麻倉に、苦虫を噛み締めたように眉間に皺を寄せた嘉内は、ふいっと視線を外した。
「痛くもねぇ癖に」
「心は痛みました」
「その感情がまるで見えねぇよ」
「でしょうね、嘘ですし」
「嘘かよ」
「痛む心なんて持ち合わせていないんで」
静かに返されたその言葉に、嘉内はぎくりとする。チラリと横目で見た麻倉の表情は、なんともないと言わんばかりに凪いでいた。
バツの悪さを感じた嘉内は、悪かった、とポツリと呟く。聞こえるか聞こえないかぐらいの声量であったが、麻倉は許します、と変わらず感情の見えない声で返した。
麻倉はそれで満足したのか、ゆっくりと車を動かす。田園風景が車窓を流れるのを見ながら、嘉内は先ほどのやりとりを内心反省した。彼の過去を考えればあまりに配慮の足りない発言だったからだ。
麻倉が対策室に入るきっかけとなった事件。そこで彼は感情のほとんどを失ってしまった。
事件に遭う前はわりと感情豊かで笑顔の多い青年だったと聞いている。そんな人間をこんな感情の起伏がまるで無い能面のようにしてしまったヤツのことは未だに許してないし、事件に関わった者としては責任を感じている。
対策室に入ってすぐはこんなやり取りすら出来ないぐらいに心の動きがなく、まるでロボットのようだった頃から考えると、こういう軽口が叩けるまでになったのはいいことだと思うようにした。
帰りには少し遠回りしてもらい、少女が失踪した山を見ていくことにした。ただし、装備が整ってないためあくまでも獣道の入り口を眺める程度だ。怪異に遭遇した時の対策も取らずに山に入れば悲惨な目に遭うのは確実だったからだ。主に嘉内が、の話だが。
木々に覆われた山はあまり人の手が入っていないのか、
車から降りて少し離れたところで山を眺めてみた嘉内としては、おかしなぐらいに普通だな、という感想だった。嘉内は怪異の発する
厄介な予感がするなぁ、と思いながら山の入り口に近寄る。すぐ側まで来ても特に嘉内の体調には変化がない。強力な怪異がいれば大体は住み着いている場所自体が汚染されるはずだ。それがないのはどういうことだろうか、と考えながら軽く獣道に足を一歩踏み入れてみれば、その瞬間一気に全身の肌が
薄れゆく意識の中、麻倉が慌てたように駆け寄ってくる姿を目の端で確認しながら、嘉内はその場に崩れ落ち意識を失った。
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